2021年過ぎ去った春のこと(後編)

オッ偉いなちゃんと後編が出てきた。想像以上にボリュームがある後編になっちゃっただわよ。

小説編(続き) 

ルート350/古川日出男

読書会課題本。

最初の「お前のことは忘れていないよバッハ」と「飲み物はいるかい」はまぁまぁ好き。話のスケールと現実味の小ささが良かった。ただ、とにかく話が、というかこの人の着地点が本当の現実にしかなくて、それが合わなかった。つまる所、この古川日出男がカッコイイと思ってること、読者だと想定している存在と自分がまったく噛み合わない。リズムに乗れないしスピリットが被らねえ。

紙の方には「補記」という名のあとがきがついていて「たぶん僕は文体については自意識過剰でモチーフについては無意識過剰だと思う」と言っていて、その通りなんだろうなと思った。

とはいえ、機会が無ければ読まなかっただろうし、何よりも「面白い」「面白くない」の元にある感情分析が様々で、これは読書会でやって(読書会が)面白かったなと思う回の一つ。全員が面白いと思う本でやってばかりもつまらんからね。

きらめく共和国/アンドレス・バルバ

ある町にどこからか現れた、
理解不能な言葉を話す子どもたち。
奇妙な子どもたちは、盗み、襲い、
そして32人が、一斉に死んだ。

あらすじのキャッチーさから、冒頭の物語の始まり方(冒頭が魅力的な小説はやはり当たりが多い!)、そして最後の着地の仕方と言い、全てに隙がない。語られる全てに無駄がない。しかし語られる全ては真実だが、その言葉の揺り籠は幻惑と不審が抱いている。マジックリアリズムってこういうこと?こういうことです。

とにかく感情の繊細な苦味を言葉にするのは巧い。言葉にすると陳腐になってしまうそれを上手く表現している。特に子供という生き物に対する大人の感情の彩度はかなり高い。

幻想とはまた違った、虚実に対する胡乱がそこにある。

2021上半期ベスト4位。

君たちは絶滅危惧種なのか?/森博嗣

WWシリーズ。前作からかなり時間があいていて、そしてシリーズ開始から長い時間が経っていて、匂わせられる重要なエッセンスに何やったっけ?となっているね。悲しいことに……。

テーマはまぁいつも通り面白かった。主人公が知識と体験と俯瞰から導く哲学の主語が、だいぶ狭い範囲になってきた気がする。それもまたそういう結論なのかもしれない。

そもそも哲学というものが人類種全体の一種の汎性思考基盤みたいなものだ。では人類の枠が曖昧になり、全体…即ち社会というものがより細分化され、それが極めて個に近い単位にまで分散された時に、そこに存在する「哲学」とはどこまでの何を言うのだろう?

アステリズムに花束を  

 SFを先付けで百合とカテゴライズしてしまうことに大きな抵抗を感じていたけど、物語そのものはとても面白いものばかりだった。

百合とSFはエンタメとしては相性が良いけれどもそれはSF側からするとそうではないと思う。現代において同性愛が(未だ)社会的に異性愛と同じポジションにない、という現実に対して「異性愛がふつう」みたいな世界観を描けば、それだけでそこに一つのフィクション…未来感が生まれる。生まれるはずなのにそれを「百合」として片付けてしまうのって安易なジャンル分けで本質を見失ってない?と思う。常識の揺らぎって本来とてもSF的なエッセンスなのに、それをカテゴライズで切り離しちゃうのってどうかしらん。

ただ、商業的に言えばそれで百合好きがSFを好きになれば儲けもんだし、逆もまたしかり、更に話題になれば万々歳である。結局、すげー商売上手いな、という感想に落ち着きます。

 ポストコロナのSF

もう少しぼかすとかと思いきや本当にポストコロナSFだった。 ふーん、て感じ。「いまこの世界に対してSF作家はどう考えるのか!?」を感じ取りたいなら、このアンソロジーよりも後出の『世界SF作家会議』を読んだ方が直接的で面白い。

とは言え執筆陣は豪華なので、きちんと面白い短編集ではある。でもまぁ、ふーんて感じやね。

小川一水の、最後の「ぼくの、名前なんですけど」の意味する所が分からなかったんですが、分かる方はこっそり教えて下さい。

 

こういう、メタ的な…現実の社会状況とか技術力みたいなものに依拠したコンテンツを"リアルタイムで"楽しむということが苦手だ。そこへ対する心の整理がつかないというか、それは時同じくして自然派性した作品と何が違うんだ?明言されたテーマに沿って我々が解読するかか?と疑念のようなものがある。恐らくそれは「5分後に驚きの結末」「どんでん返しラスト!」といった煽り文句に感じる作品を味わう上での不信感?なんだろな、うまく言えないけどザラリとした感覚に近いものだと思う。

 

上述の百合SFもそうだけども、たぶん私が商業主義を嫌いなだけかもしれんね。読書が好きだから、物語というものに美しく気高く崇高であって欲しいんだと思う。

三体Ⅲ 死神永生/劉慈欣

こういうスケールのこういう結末になると誰が予想出来ただろうか。

三体Ⅲ…というか三体全部に言える事だが、細部に粗が多いけどもアイデアと展開の妙が気持ち良く、気付けば読み終わってしまう…という感じ。粗の多い部分を(相対的に)細部にするだけの風呂敷の広げ方、という手腕でもあるのでやはり“すげー面白い小説”という評価に落ち着く。

結局、SFというものがこの著者にとって物理学に根差したオモシロフィクションというより「事象、決断、感情」という人間の不測の未来における一つのありうる仮定を描くのが肝であるというその意思の通し方がこの小説を面白くしたんだと思う。エンタメ、作者の意図、キャラクタ、エッセンス、寓意、どれをとっても皆が好きなように喋っていいし無限に解釈を語れる、最高だと思う。

 

難点を上げるとすれば、人間の愛の描き方がめちゃくちゃ雑だなと思った。物語のキーマン(男)の偏愛的な片思いが世界を救うほどの愛に繋がるというのがなかなか…作者が狂信的だなと思った。作者にそういう背景があるのだろうか?人は最初に叶わなかった恋のことを永遠に忘れられないからな…。

とはいえ恋愛慣れしていない物理オタクが世界を救うってのを3回やるのは如何なものかと思う。

ノンフィクション

世界SF作家会議

SF作家がワイワイ集まって今の(コロナ以降の)情勢を語ろうね〜という番組の文字起こし。コロナウイルスにも言及するが、それだけではなく「人類は何で滅ぶ思う?」のような突飛な話題も取り上げる。

SF作家会議というコンセプトなので、是非を問うような討論というわけではなく、未来への想像と膨大なスケールでの思考を常としている彼らがどのように見るのか、が焦点である。マァ読書会亜種みたいなもので、なかなか面白かった。

三体筆者の劉氏の意見・思想が語られていたのが(三体という物語がより味わえるようになったので)一番良かったかな。

The Address Book:世界の住所の物語/ディアドラ・マスク

本当はこの本一冊で一記事出したかったのだが気力が無くて諦めた。

…と言うほど面白い。

話は「住所」のないインドのスラムから始まる。そうだ、住所がないということは何を意味し、何を齎さないのか。

そこから話は古代ローマに遡りロンドンを経て日本、マンハッタンへ。都市計画、郵便事業と郵便探偵、ジョン・スノウのコレラマップ、通りの名前を巡る人種差別から、そして富裕ステータスとしての住所まで様々な切り口から人間の思想と社会と地理の絡み合いを描く。

私たちが当然あると思っている「住所」というものが、どれほどの社会的価値のある概念であるかを教えてくれる。是非読んで欲しい。

 EXPLORE’S ATLAS 探検家の地図

犬が踏み入れてはいけない土地があることを知っていますか?地球上でも重力が異なる場所があることも?

有り体だが、世界にはまだまだ知らない場所がこんなにある、というのを情報面からこれほど味わえる地図はなかなか無いだろう。かなり大判だが、図書館で借りた後にあまりの素晴らしさに購入した。面白い。辞書を読むのが好きな人には垂涎ものの本。私はよだれをベロベロに垂らしながら読みました。

漫画

美食探偵 明智五郎/東村アキコ

読んだ。小気味よい。小気味よいという感想、なかなか出て来るものではなく、またその感想の分析も無粋なのでイデアにしか存在せず、非常にレアである。小気味よいという感情が味わえるだけで評価がめちゃくちゃ高くなる。

東村アキコは割と自虐とか自意識への毒舌みたいなものがギャグの要にあるのが多いんだけど、これはもっと素直なギャグ漫画になっておりオススメです。

チェンソーマン/藤本タツキ

10巻まで読んだ。何かこう、自分の趣味じゃなさそうだなと思ってたけどやっぱり趣味では無かった。展開とキャラは面白かったけども、細部が好みじゃないな。

葬送のフリーレン/山田鐘人,アベツカサ

最高の漫画。2021上半期ベスト2。

ずっと読んでいたい。果てしない時の幅を感じるのが好きだし、時間感覚が違う生き物というのに凄くロマンを感じる。なりたい。

全ての章が「ヒンメルの死から」でカウントされている時間感覚にも解釈してしまうし、頻繁差し込まれる回想シーンの感情とそこにある誰かの慈しみに毎回胸を鷲掴みにされてしまう。記憶が思い出になっていく瞬間を私たちは見せられている。

あとがき

しんどすぎる、もう二度と溜め込みたくない。

今になって全部思い出しながら一気に書くなんてあまりにも計画性がない。

その計画性の無さから2021上半期ベストが散在している。どういうつもりなんだ。

 

こうしているうちにも梅雨前線は身悶えしながら遠ざかっていく。

夏はもう目の前だ。

2021年過ぎ去った春のこと(前編)

色々読んでたんだけども全く何も書く気がなくなって放置してた。何をしてたかって?Switchで遊んでいました。

P5Sクリアレビュー 愛の果てにあるべきものは永遠 - 千年先の我が庭を見よ

とは言え溜まりすぎたし、これは読書記録代わりでもあるのでまとめて出す。放置していた所為でめちゃくちゃ多い。えっこれ前編?後編もあるの?

複眼人/呉明益

人間の喪失感と海が齎す心象世界と先住民の生活や海の環境問題という現実が絡まりながら物語は進む。そこに架空の島の少年が混じり、虚実はより奇妙なダンスを続ける。台湾という文化と歴史を持つあの島がこの物語を書く人間を産んだのか、という境地がある。ただ、表題が導くほど幻惑的な読み心地はなかった。

マジックリアリズムってこういうこと?

彼女の体とその他の断片/カルメン・マリア・マチャド 

首にリボンを巻いている妻の秘密、
セックスをリスト化しながら迎える終末、
食べられない手術を受けた私の体、
消えゆく女たちが憑く先は……。
ニューヨーク・タイムズ「21世紀の小説と読み方を変える、女性作家の15作」、全米批評家協会賞、シャーリイ・ジャクスン賞、ラムダ賞(レズビアン文学部門)他受賞、いまもっとも注目を浴びる作家を、最高の翻訳家たちが初紹介! 大胆奔放な想像力と緻密なストーリーテーリングで「身体」を書き換える新しい文学、クィアでストレンジな全8篇収録のデビュー短篇集。

女の内面のエゴイスティックに切り取られた世界とグロテスクで甘い夢想が何故か不確かな現実に包まれており、虚実夢幻をこんな出し方をしてくる小説は初めてで舌が痺れる。個人的には「セックスをリスト化しながら迎える終末」と紹介された掌編が好きだった。とてつもなく重要な情報が裏にあるのに、人間そして個人というフィルタを通す所為で非常に矮小なレンズを通してしか真実を掴めない。その本来的な「情報記録」の妙を敢えてセックスと絡ませることでより奇妙で歪なスケールギャップを生み出している。火星人と握手*1だ。

どの物語にも著者の社会的なスタンスが背景にあるので、あとがきから読んだ方が楽しめる。ただし、読書時の感情というのかな、味わいみたいなものはかなり人を選ぶとも思う。

ANIMA/ワジディ・ムアワッド

 女が死ぬ。それは過去になる。数多の動物達が観測している。殺された女に纏わる事実と会話が聞かれている。見られている。動物達の目と耳がある。人間の感情は置き去りだ。動物達は自らの宇宙と哲学とそして観測が物語を作ることに気付いてはいない。女の死はまだそこにある。

複数のカメラが空間を作り、カメラの移動は時間を作る。小説の味わいというよりは、存在しない場所に仕掛けられた見事な舞台を眺めている気分になる。小説で空間そのものを感じたことある?こんなの初めてだよ。

ただ一方でその仕掛けの所為でストーリーの進みが遅い。映像をそのまま文章にしたかのような構造のため、情報量が膨大となっており、全体的に読み易くはない。とはいえこの読書体験は非常に稀有なものだと思うので一読の価値はある。

ブートバサールの少年探偵/ディーパ・アーナパーラ

 ジン(精霊)を信じていないようで信じている、という子ども特有の思考回路がとても良い。彼らの中に、良いこと、悪いこと、世界の見え方というものが、そこに根付く文化によって穏やかに累積している。そしてそれらはまだ高度な物理法則や他人の常識によって汚されていない。

一方で物語の真実にはそういった子ども視点の発想を超える残酷さが隠されている。

この二つが両立しているのが現実である、というのが著者の最も描きたかった絵であり、そのどちらか一方に偏って寓意を見出すのは無粋というものだろう。その場所特有の子どもの無邪気さも、インドの貧困地域の闇もそこにあるものだ。

ネタバレはないので、解説・あとがきを読んでから読み始めることをお勧めする。

 

マーダーボットダイアリー/マーサ・ウェルズ

2020年上半期(私が読んだ本)ベスト1と言っていい。個人的にはエンタメ性の素直さという部分で総合点が三体を超えます。

これが面白くないって人間います?早く読んだ方が良いよ。

2010年代海外SF傑作選 

〈不在〉の生物を論じたミエヴィルの奇想天外なホラ話「“ "」、映像化も話題のケン・リュウによる歴史×スチームパンク「良い狩りを」、グーグル社員を殴った男の肉体に起きていた変化を描くワッツ「内臓感覚」、仮想空間のAI生物育成を通して未来を描き出すチャンのヒューゴー賞受賞中篇「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」……2010年代に発表された、珠玉のSF作品11篇を精選したオリジナル・アンソロジー
【収録作品】
「火炎病」ピーター・トライアス
「乾坤と亜力」郝 景芳
「ロボットとカラスがイースセントルイスを救った話」アナリー・ニューイッツ
「内臓感覚」ピーター・ワッツ
「プログラム可能物質の時代における飢餓の未来」サム・J・ミラー
「OPEN」チャールズ・ユウ
「良い狩りを」ケン・リュウ
「果てしない別れ」陳 楸帆
「“ "」チャイナ・ミエヴィル
ジャガンナート――世界の主」カリン・ティドベック
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」テッド・チャン

 粒揃いの珠玉の短編集。非常に良かった。

何よりもやはりテッド・チャン。「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」があまりにも素晴らしすぎる。バーチャル生物に法人格を与えて人間ではないものに昇華させることで社会における権利を獲得させるという発想、一番痺れたな。生命とは何か、じゃないんだよな。そういう人類の倫理と別の速度で動いているんだ、社会は…。そういう過渡期の未来社会の描き方が見事。SFプロトタイピングを地で行く大作であろう。『息吹』に収録済みということだが、テッド・チャンを読むのは割と大変なので本アンソロジーを読んでみて「やっぱSFオモシロ!」ってなったら買うくらいでもいいと思う。

ミエヴィルの「””」が収録されているというアン・ヴァンダミア編の幻獣辞典アンソロジーThe Bestiaryが非常に気になるが邦訳が出ていないようで残念...。

ベーシックインカム/井上真偽

遺伝子操作、AI、人間強化、VR、ベーシックインカム。未来の技術・制度が実現したとき、人々の胸に宿るのは希望か絶望か。美しい謎を織り込みながら、来たるべき未来を描いたSF本格ミステリ短編集。

SFと銘打ったのはミステリに対する敬意かもしれない。その実、(世界観説明のない)ミステリの前提条件である「現代日本」に揺らぎがあるため、単純な謎解きとしてはフェアではない...が本作品ではむしろその「前提が崩れる」というのを”SF”として味わってもらおうという趣旨になっている。

趣旨通りの作品としては面白く、読みやすかった。

さよならの儀式

まぁ大体、大森望氏がやっとるSFアンソロジーでハズレはない。

石川博品式貴士が面白かった。

海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと/石川博品

分かったぞ。良くも悪くもティーンズ男子が授業中にやる妄想を全力でそのまま小説にするタイプの人だ。残念ながら(もう)私には合わない。

この手のタイプの作家は何人かいるけども(上遠野浩平とか冲方丁とか、何なら西尾維新も)、主人公の自意識をどこまで描くかで普遍的な舌触りが変わってくる。露悪的なそれと寄り添う物語に、いつまで共感だけで溺れ同時に救われるかというのがティーンズの壁なんだろう。もう思い出せないけれども、精神的にその壁を越えてしまった事だけは確かだ。

薔薇のなかの蛇/恩田陸

17年ぶり理瀬シリーズ。『黄昏の百合の骨』『麦の海に沈む果実』のあれです。

期待通りの上質な恩田陸ミステリでございました。

恩田陸に関しては「恩田陸ミステリ」というジャンル?なのであって、それを掴んでいないと全部肩透かしという感想になる。肩透かし、というのがこの人のミステリにおける、というか「真相」におけるスタンスなのだ。別にそれは知らなくても(特に評価においては)良いところではあるが、文化背景を知ると異国料理がより素直に味わえるのと同じである。なお、そのあたりは『消滅』に最も直接的に描かれている。

でもやっぱり恩田陸で面白いのってどれ?って言われたら『麦の海に沈む果実』なんだよね。

オススメマンガ情報

身も蓋もないタイトルだ。

久しぶりに友人がオススメしていたマンガを読んで面白かったので、たまには私も出すかとなった。あんまり過去の名作みたいなものは出さずに、ここ数年での感性で(そして出来れば連載中で)ピックアップしよう。

 単行本買ってるやつ

北北西に雲と往け

作家単位で好きな人の一人。完結済みの、連作短編となる『群青学舎』、魔法の物語と少女の成長を鮮やかに描く『 乱と灰の世界』どちらもおすすめ。

これはアイスランドの物語り+ミステリ要素といったところ。とにかく世界の彩りといものに対する筆致が凄まじい。もちろんその彩には人間も含まれる。

ダンジョン飯

作家単位で好きな人の一人。ギャグ漫画で終わらないところが良い。「食べる」ってことが生きる上での一つの営みであるという作中の意思がきちんと物語全体にも反映されているところが好き。

葬送のフリーレン

 先週くらいにやっと読み始めて、あまりにも好きすぎて買ってから3回くらい読み返した。多分、果てしない時の幅を感じるのが好きだし、時間感覚が違う生き物というのに凄くロマンを感じている。なりたい。

『天冥の標』とか『新世界より』とかでの、自分が好きな要素もそこに集約される。

もののがたり

 めちゃくちゃストーリーが面白いわけではないのだが、その“”画”“の強さと戦闘シーンの圧巻にズルズルと書い続けてしまっている。もうね、画が強い。白と黒が強い。設定はとても好き。くっつく予定の2人が安定しているのでそれも良い。

ワールドトリガー

バトル要素が上手くスポーツ化されているが、「スポ根」とは無縁でありどちらかというと競技性というものを楽しく味わえる。 そうだね、Eスポーツの面白さです。

一方で主題がそこではないところもこの物語の面白さの一つ。詳細はこちら。

ワールドトリガーが実質e-Sports漫画だという話 - 千年先の我が庭を見よ

ロジカとラッカセイ(完結、全3巻)

不穏さと陽気さの塩梅が非常に心地良い連作短編集。完結までの長さもちょうど良い。のどごしも良い。とにかくロジカがめちゃくちゃ良いキャラだし、ラッカセイもかわいい。

1話が公式で読めるよ。

web漫画編

WEBのみ連載という意味ではなくてWEBで追いかけているやつ

三千世界を弔って

フリーレンが好きな理由とだいたい同じ。

 

合コンに行ったら女がいなかった話

いい塩梅のラブ(?)コメ。

ganganonline.page.link

不徳のギルド

アホアホ成分補充枠

ganganonline.page.link

ジャンプ系

2.5次元の誘惑:ラブコメ要素とそこにある人間関係の複雑さがちょうどよい

推しの子:ストーリーの妙。タイトルがな、と思っていたがダブルミーニングタイトル回収に膝を正すこととなった。

SPYxFAMILY:はい。

ダンダダン:はい。

マガジン系

空挺ドラゴンズ:グルメファンタジーではない。生態ファンタジーです。

虚構推理:やはり城平京

100万の命の上に俺は立っている:異世界転生でも知恵と工夫があって良い

この世界は不完全すぎる:デバッグという新しい視点が素朴に味を出してる

ふらいんぐうぃっち:まったり成分補充枠

世が夜なら!:アホアホ成分補充枠

その他

薬屋のひとりごと:想像以上に面白かった。日常謎解き系でしたね

読解アヘン:堀宮もちゃんとまだ更新されているし新シリーズ始まってたの知ってた?

メイドインアビス:更新頻度が安定してきた。すぐ地獄を見せたがる。

 

 

 

P5Sクリアレビュー 愛の果てにあるべきものは永遠

ペルソナ5スクランブル!やったぜ!

 ペルソナ5が楽しすぎたので、続編と聞いてウキウキしながら買ってきた。(Switchごと買ってきた)RPGからアクションゲームへ、というジャンルの転換が不安ではあったが結果的にそれは大成功で、続編としてもファンが存分に楽しめるものであった。

 

折角なのでクリアレビュー、というか感想を書いていこう。

これからプレイするにあたって楽しむべき場所…つまりストーリー上のネタバレ、「これからどうなっちゃうの!?」という謎部分への言及は避ける。しかし、「作品について語る」というのは原理的にはネタバレであるという理解で読み進めていただければと思う。

続編という呪縛の解き方

ゲームであれアニメであれ映画であれ、素晴らしいコンテンツを楽しんだ後には誰もが口を揃えて言う。

「続編お願いします!!!」と。

しかし、この続編を求める心というのが非常に厄介で、実のところ「続き」を望んでいるわけではない。より正確に言うとこうなる。

「記憶を消してもう一回楽しみたい!」

そう、エンディングの後が見たいのではなく、もう一度同じような幸福感や満足感を得たいだけなのだ。とは言え、本編(以下、続編の元となるオリジナルを本編と呼ぶ)で絶賛された要素に変更しただけのストーリーでは満足できない。全く我儘なやつだぜ…。

その点、『ペルソナ5』は大胆にもRPGからアクションゲーム、いわゆる無双ゲームへの変更という思い切った続編の出し方をしてきた。P5で最も魅力的だったのはそのバトル周りの格好良さや爽快感だった。大丈夫なのか…?しかし、その心配はすぐに杞憂へと変わる。この「バトルシステムの一新」は、即ちこの作品の核である「潜入」という作業の一新でもあったのだ。

どういうことか?

二番煎じからの脱却である。

バトルシステムがゲーム全体に…いや、「プレイ後の喉越し」に及ぼす影響はかなり大きい。だってゲームでのプレイ作業の大半は歩くことと戦うことなんだから。「エッセンスを踏襲しつつ、真新しさを出す」という意味においてバトルシステムの一新は非常に大きな役割を果たした。前述の続編への欲望、「おんなじ事はやりたくないけど、おんなじ爽快感は味わいたいんだよなぁ」への見事な回答である。

まぁこれでペルソナ要素がおざなりになっちゃうと辛いんだけど...

ちゃんとこれはこれで楽しい!!はい、それは次で説明します。

多彩なモーション、つまり色んな君の横顔

ペルソナ召喚は可能だし、P5でのカバーアクションのような“怪盗ムーヴ”アクションも有るし、きちんと「ペルソナ5」の無双ゲームになっているのだ。多彩なコマンドアクションも楽しめる。コマンド毎のモーションも豊富で敵を蹴散らす爽快感はP5以上だ。(まぁ無双ゲームなので)

でもね、そこじゃないの。

”コマンド毎のモーションも豊富”、ここです。そうなの。

ジョーカーがめちゃくちゃかっこよく攻撃してる色んな動きが見れるのよ!!

銃撃からのナイフ連撃、ペルソナ召喚、ジャンプ、空中回避、ダッシュ、もう全部かっこいい。ずっとみてたい。ずっと見てたくてよく何もないところで素振りしていました。ジョーカーが好きすぎる。ペルソナ選択中は戦闘時間が静止するので、止まった時間の中でカメラを回転させて空中で銃を構えるジョーカーをいろんな方向から見ていた。バレットタイムみたいに。

しかもジョーカーだけじゃない。なんとP5Sでは操作キャラを切り替えられるので、怪盗団全メンバーのモーションが見られるのだ!きゃー嬉しい!

走る、立つ、隠れるだけでもそれぞれ個性が出ておりキャラ愛でゲームとしても最高である。

春ちゃんがアックス持ちながら走るの凄く良いよね。モルガナのぴょぴょぴょぴょと走る姿もカワイイ。ジャンプやカバーアクションでの膝の曲げ方や身の捻り方、重心の置き方ひとつでもそのキャラクターらしさが出ている。素晴らしい。 

あとなんか細かいとこ(ゲームシステム編)

・アクション要素

P5ファン向け、ということだからかジャンプやダッシュ判定が緩くて良かったのは嬉しかった。

マリオみたいに上手いこと操作しないと崖から落ちるのは心が折れてしまうので、個人的には嬉しかったところ。とはいえ、要所でP5くらいの緊張感あるアクション要素となっており、「潜入」という雰囲気は引き続き楽しめた。

・デザイン

戦闘から通常画面へのシームレスな繋ぎなどは流石にP5本編のようにはいかなかったが、メニュー画面のかっこよさは続編の方では磨きがかかっている。この画面の動きだけで大興奮できる。

 ・ペルソナ合体

本編ほどの自由度はない。幅の自由度を捨てた代わりに、育成というY軸の自由度がある。入手についても物語性はないが、「ペルソナ」というシリーズのエッセンスを損なうことなく無双ゲームに組み込んだと考えると満点ではないだろうか。

ストーリー、もう一度同じテーマを描くということ

きちんと本編を踏まえての続編だな、という感じ。ダラっとした同じことの繰り返しでもなく、きちんとこのためのシナリオがあって非常に楽しめた。

特に、P5本編で欠点だった部分が「続編」という特性によって解決されている。

本編では、初期メンバーにはアホと記憶喪失しかいないので、核心に触れそうになると「難しいことはいいからまず目の前のことやろうぜ!」という惰性が多かった。しかし、今回は最初からメンバーに優等生の真がいるのでそういった展開は許されず、方針が論理的に決まっていく。加えて、前作ありきで世界観で必要な前提の説明が少なくて済むので、ストーリーの駆け出しが早くて楽しい。

メンバーについても、続編ということで最初からほぼ全キャラが集合しているため、存分にキャラクターや会話を愛でることが出来る。

 

プロットレベルで見ると手垢のついた話なのかもしれないが、個人的には本編よりもきちんと怪盗団の精神性を問い・答えるストーリーになっていると思った。というか「問い・答える」を一回本編でやっているのに、それを続編で同じことを視点を変えて面白く出来るのは凄いと思う。

それはきちんと「続き」という話、キャラクター達にとっての「あれからの続き」すなわち「未来と成長」を描くというエンディングまでの長い工程が非常に丁寧だからこそ光るものだ。とにかくペルソナ5...キャラクターや精神性に対する愛がきちんと引き継がれている。嬉しい。

あとなんか細かいとこ(ストーリー編)

・恋愛要素

ない。なぜなら男女8人が楽しいキャンピングカー一台で日本全国を飛び回る話なので...。そんなとこで恋愛やったら泥沼なので...。

・キャッキャ(日常)

とはいえ、ただただ仲良し青春男女8人のキャッキャした会話をずっと聞いてて楽しくないわけがない。本編以上に日常、というか夏休みなんだから毎日ワイワイやっとるわけだよ。旅するというあたりも含めて日常会話も多めで、潜入中でも会話はとても多い。みんなもう仲良しだもん。それぞれのキャラ同士の会話も楽しい。裕介と双葉もずっとイチャイチャ絡んどる。もうお前ら付き合えよ。

そうそう、そういうのを続編に期待してたの!!がここにある。

・キャッキャ(戦闘)

あと、戦闘においても他のメンバーがめちゃくちゃ褒めてくれる。スキルが当たれば「さすがだぜジョーカー!」特殊アクションを使用すれば「スカルにしては頭脳プレーじゃないか!」回避が出来れば「さすが美少女怪盗だぜ!」とプレイヤー操作キャラに対して他のメンバーがめちゃくちゃ褒めの手を入れてくれる。気持ちいい〜!プレイ体験としても爽快だが、これがきちんとキャラ毎にあるのでそれもまたキャッキャの味わいよ......。

レベル99でラスボスに挑む虚無からの解放

私はゲームが終わる時にはサブクエストやミニゲームをやりこんで、収集物は100%にしたいタイプだ。

でもラスボス前...ゲームが終わる前にそれをやると、レベル99でラスボスに挑むことになり、壮大で強健な最後の敵のはずなのに戦闘そのものが楽勝になってしまう。そして呆気なさだけがこの手に残ってしまう。強くなりすぎてしまったのだ。順当に進めて挑んでいればきっと苦戦して緊張感ある「ラストバトル」になったはずなのに…。でもでもレベル95で手に入るアレもコレもちゃんと入手して終わりたいのん…。

やり込み要素とラスボスへの虚無という二律背反がそこにはある。

 

しかし、P5Sではゲームを順当に進めてラスボスを“苦戦して”倒してクリアしたあとでもゲームそのものを楽しむことが出来る。「ストーリーの終了」と「ゲームの終了」の間が作り込まれているのだ。その間ではクリア後コンテンツややり込み要素をゆっくり楽しんで、満足いくまで育成することが出来る。

もちろん、やり込みに応えてくれるだけの追加の強敵が用意されている。

そしてこれらのやり込み要素を全て踏破すると2週目プレイが解禁されるという仕組みだ。

「作り込んだゲームを楽しく遊んでもらおう」という双方にとって嬉しい作りになっている。ゲームプレイへの快適さへの精神はこういったあたりにも引き継がれている。

もうATLUSのこと大好きになってきちゃったな。

愛の果てにあるべきものは永遠

もう書くことはない。

ファンの「続編やりたい~」という曖昧で複雑な欲望をきちんと分析し、そこに応えてくれる作品だった。

 

 

愛の果てにある「ずっと見ていたい/遊んでいたい」に応えてくれる。

私は楽しすぎて終わらせたくなくて、まだずるずるレベル85あたりでクリア後育成を続けている。楽しすぎてというか、ジョーカーとさよならするのが辛くて続けている。まだずっとこの世界にいたい。ジョーカーのことを見ていたい。終わりがくるまでは永遠なので、こっちの世界戦でラスボスが倒されることはなくジョーカーは未だに有象無象の敵を倒し続けている。強くなり続ける。

かっこいい。

きっとジョーカーにとっては地獄だけどこっちは天国だよ。

 

 

 

 

2021年冬のこと

あれよあれよという間に冬が終わった。

春?春もいつ来たのか分からない。とにかく各種パン祭りが開催されたことだけは察知していて、白い皿に必要な点数はもう集まった。白い皿がもらえたら、それはもう冬の終わりだ。冬は明後日くらいに終わります。

  小説

ガール・イン・ザ・ダーク 少女のためのゴシック文学館/高原 英理(編)

 おそらく望む通りの雰囲気の小説*1が収録されており、望んだ通りの雰囲気を味わうことが出来る。「トミノの地獄」について、何故このような詩が出来たのかわからないという解説がとてもこの詩の誕生に相応しくて良かった。 

アルモニカ・ディアボリカ
アルモニカ・ディアボリカ (ハヤカワ文庫JA)

アルモニカ・ディアボリカ (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者:皆川 博子
  • 発売日: 2016/01/22
  • メディア: 文庫
 

前作『開かせていただき光栄です』の続編にあたる。

前作ありきの物語であり、今度の話はナイジェルがメイン。前作よりも物語自体の錯綜がかなり強めになっており、全体像を把握するのに少し苦労した。それでも謎が牽引する面白さ、キャラクタの魅力はさすがのもの。

前作でキャラクタが出来上がっているので、それぞれがより活発に動いてくれてとても楽しめた。とは言え、読了後の爽快感という意味では私は前作の方が好きだな。

やや運命の牽強付会的なところがあり、なんとなく飲み込めない部分もあったが、ミステリにおける謎と探偵と警察(法)という三つ巴を時代背景という舞台でこのように調理してくるか!というあたりは、前作に引き続き見事な着地点である。

 ストーカー/アルカジイ ストルガツキイ,ボリス ストルガツキイ

 これは下記記事を読んで、面白そうだなと思って手に取った。この記事は非常に面白いので、まずこれを読んでください。

highwinterline.net

ある日突然、地球が異星人により侵略され、その土地は得体のしれない存在が跋扈するようになっていまう。人々はそこを「ゾーン」と呼ぶようになり、「ゾーン」から”お宝”を獲ってくる「ストーカー」と呼ばれるならず者たちも生まれ始める...といった話。物語は熟練ストーカーである主人公の一人称視点で進んでいく。

とにかく、「得体のしれない存在」とのコンタクト(コンタクトですらないのかもしれない)における、恐怖心・精神的錯乱の描写が凄まじく鮮やかである。徐々に自分の思考が”本能”に侵されていく過程での独白など、こちらまで狂いそうになる。

本書ではこういった「未知とのコンタクト」と並行して、「ゾーン」に纏わる....というよりもゾーンがあるということを前提に生きている人間たちの絡み合いも描く。解説曰く、映画としてはやはり後者(主人公の生き様)をメインに描かれているらしいが、小説としての主題は「ゾーン」が存在している世界であって、それをある一人の人間を通して描いているにすぎない、と思う。

それはおそらく原題の直訳である”炉端のピクニック”にも表れていると思う。

個人的には『ストーカー』よりも原題ののほうが良かったと思う。まぁ映画との兼ね合いがあったんですけど...。

未知との遭遇」というテーマが抱える根源的なアンチ・リアルに有無を言わさぬ回答を突き付けたのが本作であると思う。人間の恐怖や「存在」の描写だけでも充分魅力的だが、SFとしての内容も非常に面白く、そして結末の締め方も見事である。ぜひ読んで欲しい。

南十字星共和国 /ワレリイ・ブリューソフ
南十字星共和国 (白水Uブックス)

南十字星共和国 (白水Uブックス)

 

『地下牢』『姉妹』が好きだった。こういう、寓意のない民話?のような話は好きだ。小さなころに民話や伝説を集めた各国ごとの『〇〇(〇〇は国・地域名)のお話』という感じのタイトルのシリーズ本があって(もう思い出せないが、こぐま社の「子どもに語る」シリーズかもしれない)わくわくしながら読みつくしたことを思い出す。

特に『姉妹』はどれを選んでも選ばなければならないとなった時点でもう人生終わりみたいなところは最高だった。シャルル・ペローの『赤ずきん』に代表される様に「これはどういう物語なのか」を読み手に委ねる不気味さも味わいの一つだと思う。

 

表題作である『南十字星共和国』は、架空の背景を持った架空の国家が「撞着症」という精神病によって崩壊していくまでを通信社のレポートという体で記述した短編。すごく良かった。ウィキペディアもそうですけど、ドラマを極力ドラマにしないように描くというスタイルは、自分でその行間なり背景を読解することになるから、想像力と感受性の接続が早くなって心がザワザワする。


とはいえ、実は全部読み切るのが結構キツくて、2,3編は斜め読み状態でした。伏線のない描写と独白が続くとどうしてもダレてしまう....。何かのアンソロジーに入っていればかなり心に残ったであろうものが多かったですが、通しで読むとどうしても単調に思えてしまい、ちょっと向いてなかった。

ただ、これで読書会をしたところ、自分の読み方とは違う視点での分析を多々聞けたのは非常に良い経験だった。割と強制的に読む機会がないとオススメ本も読まないし、「自分にとって面白かったか」だけで判断しがちなので、読書会のありがたさを実感したところ。

日曜は憧れの国/円居挽
日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

日曜は憧れの国 (創元推理文庫)

 

 ティーンズ向けに特化した小説だな、と感じた。あとがきで作者自身も「自身の経験をもとに十代に向けてこのような人生の転がし方もある(意訳)ということを伝えたかった」と書いている。

語としては、ひょんなことから発生する日常の謎を4人の少女が解いていく、それと同時にそれぞれの少女が内省していくという形式なのだが、少女たちの台詞が「~なのサ」などと極端にキャラ立ちに寄せているのが読んでいてキツかった。ただ、小説をあまり読まない十代にとっては非常に読みやすい配慮だろうし、そういう層がこの本を手にとって作者が望んだ通りの何かを受け取れたとすればこの小説は「面白いかどうか」という評価軸を超えたところで価値を持つことになる。

そういう役割で出来上がる小説があるのか、と目から鱗だった。

筐底のエルピス/オキシタケヒコ

理詰めの設定に萌えられるかどうかだ。

殺戮因果連鎖憑依体という悪鬼のような存在が人間にとりつくと、ヒトは殺戮衝動に捕らわれる。「因果」とあるのは、この悪鬼が「とり憑かれた人間を殺した場合、その殺人に因果を持つ加害者へ転移する」という法則を持っているためだ。そして主人公たちは、改造眼球『天眼』を宿し、独自の特殊能力『転移フィールド』を使って、その悪鬼殲滅に挑む――というのが大まかなストーリィだ。

この設定がかなり面白くて、法則はきちんと自然界の法則と同じように成り立っているのだ。そういう習性があるとかではなく、「法則」なので当然その穴や奇抜な転用で悪鬼を封じることが出来る。また、当然それは討伐側にとっても超えられない法則として制限のあるゲームとなる。

例えば、前述の「転移する」というルールは当然討伐者にも適用される。そこを利用して、「憑依された人間を殺して、自分に鬼を憑依させた後に自殺する」というトリッキーな討伐が成り立つ。殺した人間が自分である以上、鬼にとっては憑依先の無限ループというエラーに陥ってしまうのだ。このあたりはかなりプログラミング的ともいえるだろう。もちろん、自殺とは言えすぐ蘇生するような”自殺”であるのだが、こういった設定の扱い方にこの小説の魅力がある。

Darker than Blackの「契約者」ルールや十二国記の「天帝」でもそうだけど、ルールそのものが人間の善悪や利・不利に関係なく独立して存在しているという世界観がとても好きだ。私は「整然」という状況に萌えを感じる人間です。

 

ただ、全てが陰鬱というか、どうにもキャラ愛のような部分がなかなか湧いてこなくて続刊を読み進めるのが難しかった。基本的に、人が死ぬ状況ばかりなので、というか人が死ぬことで物語が回り続けるので、皆めちゃくちゃ傷つくし、感情もボロボロにされていく。そんなに頑張らないで...生き急がないで....。

 

設定としてはかなり面白いのだが、精神的に疲れてしまって3巻で止まってしまった。

映画

シン・エヴァンゲリオン劇場版

はい。

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』感想 - 千年先の我が庭を見よ

 

ゲーム

ペルソナ5

クリアした。最高だった。

ネタバレなしの感想はこちら

kiloannum-garden.hatenablog.com

ネタバレ全開でOKな人はこちら

kiloannum-garden.hatenablog.com

 テイルズ・オブ・ヴェスペリア
テイルズ オブ ヴェスペリア(特典なし) - PS3

テイルズ オブ ヴェスペリア(特典なし) - PS3

  • 発売日: 2009/09/17
  • メディア: Video Game
 

うぉおおゲームって楽しい!の気持ちが盛り上がって他のRPGをやることにした。(この流れよくあるな)
テイルズシリーズは遥か昔にエターニアを友達の家で2Pをプレイしていた記憶しかない。うちにゲーム機はなかった。

スキットと呼ばれるキャラ同士のかけあい小劇場も 、料理も面白い。冒険している感じだし、成長も楽しい。でも求めているものが何か違うな...という戸惑いがずっとあって、モチベーションはゆるゆると降下中だ。

戦闘の操作が難しすぎる。もはや格ゲーだ。私は格ゲーが苦手だ。右と左でボタンを二つ同時に押すという作業は無理です。Ctrl+Z以上のことを求めないでほしい。
左スティックで移動なのに、左スティック方向と四角ボタンの同時押しで技が出るのがよくわからない。ウワ~ン!操作が多すぎる。

また、戦闘のタイミングもストレスだ。どのタイミングでボス戦になるのかが全然わからないため、まず初見で死ぬ。チュートリアルで必ず全滅するフローが数回行われた後、まったく同じシチュエーションの繰り返しで普通に全滅する戦闘が始まる。「えっこれ死ぬの!?」みたいな展開が多い。
真の冒険とはまぁそういうものだが、直前のセーブポイントの位置が悪く、すぐさま戦闘開始にはならないのだ。細かいところでストレスがたまる。

最後に、俺は修学旅行の引率がしたいわけじゃないってことなんだよ。
序盤は、主人公であるユーリが成り行きで箱入りお嬢様とガキンチョ2人と犬と一緒に旅をすることになる。しかしお嬢様はポアポアしとるし、女子はすぐケンケンしとるし男子はグチャグチャ言うとる。犬は何も言わない。グループが不穏な方向にいきそうになるたびにユーリ先生が「まぁまぁ...」と宥めている。

はやく~!!大人!大人出てきて!

という感じで、システムとしても物語?としても魅力を失いつつあり、惰性と瞬間的な面白さだけで続けている。この感じ、無料スマホゲーですわね...。もしかしたらもうちょっと進めればハマるのかな、と思いつつプレイをしている。

かいたもの

忘れられない夢を見る。

「フィクサーに挑まないか?」 - 千年先の我が庭を見よ

「ここはそういう場所なんだよ」 - 千年先の我が庭を見よ

 

 

 

*1:『ガール・イン・ザ・ダーク』収録作品

「獣」モーリーン・F・マクヒュー/岸本佐知子
「トゲのある花束」立原えりか
「サイゴノ空」川口晴美
「想ひ出すなよ」皆川博子
「ふしぎなマリー」保富康午
「魔法人形(抄)」江戸川乱歩
「緑の焔」左川ちか
「不死」川端康成
「青ネクタイ」夢野久作
「うたう百物語(抄)」佐藤弓生
「夜の姉妹団」スティーヴン・ミルハウザー柴田元幸
「枯れ野原」深沢レナ
「美少女コンテスト」小川洋子
「モイラの裔(抄)」松野志
「ひなちゃん」松田青子
「夢やうつつ」最果タヒ
「ガール・イン・ザ・ダーク」高原英理
嵐が丘シルヴィア・プラス/高田宣子・小久江晴子訳
「八本脚の蝶(抄)」二階堂奥歯
「血錆」田辺青蛙
トミノの地獄」西條八十
満ちる部屋谷崎由依
「水妖詞館(抄)」中村苑子
「ファイナルガール」藤野可織

ハルサメカラメル/Saccharine rain

止められない喪失の予感 

もういっぱいあるけど

もう一つ増やしましょう*1

自分の人生というものを、坂道を転がる車輪のように、ただ倒れないようにだけ集中しながら扱ってきて、自分で金を稼ぐようになると突然道が平坦になった。

どういう風に生きようかと思った時に、自分の人生をどういう風に扱っていこうか、と考えた。それは自由というものだったし、錨にも鎖にもなるものはなく、何もかもを自分で決めて自分が責任を負うことが出来た。でも、きっと私は何ものにも縛られないのなら自分の人生を雑に扱うような生き方をするだろうと思った。そういう生き方はやめて、そのために必要な不自由を受け入れて、地に足をつけて生きる方を選ぼうと思った。人生における大きな転機の前に、その転機を作ることを、人生の岐路を作ることを良しとするかという決意があった。

おおむねその通りの人生の重みがあり、それはやはり不自由と繋留を齎している。

 

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』感想 

 見てきた。

ネタバレありでの...というか何を言ってもネタバレになるという凄い状況なので、感想は全てネタバレですね。感想を書きます。


『シン・エヴァンゲリオン劇場版』本予告・改2【公式】

 

TVシリーズを全部見ていたわけではないけど、漫画は確か全部読んでる。中学のころだったかに県立図書館のビデオ閲覧ブースで『Air/まごころを君に』を観たと思う。それなりに考察の本や記事を読んだような気もするし、『序』からはリアルタイムで劇場へも足を運んだ。

 

世間がネタにしたり本気にするほど、エヴァというものに呪縛はないけど*1、あ~ちゃんと完結してよかったな~と非常に豊かな気持ちになりました。面白かった?うーん面白かったけど、面白いって感想が似合う映画ではなかった気がする。

 

今まであった全ての部分にちゃんと伏線回収をしようとしていて、ちゃんと物語の着地点を決めていて、膨大で有耶無耶になった概念のようなコンテンツに主が向き合って誠実に答えを出したというのは凄いことだと思う。

 

作中で語られる数多の謎設定とか計画の用語もちゃんと一覧が配られて、「ファンのみなさん、ここにちゃんと色々書いておくので各自検索したり感想を書いたりする参考にしてください」という長文考察ブログ/記事への発破があって嬉しかったな。あれはそういう意味やぞ、まだお前はブログを書いとらんのか、書け書け!
やっぱり、面白い作品をいろんな人が自分の言葉で語ってる世界は素敵よね。

 

ちゃんと、いろんなキャラクターの精神が時間とともに大人になっていて、そういう描写はとても良かった。精神がね、“大人”になるって部分がかつてのキャラクターを通して色々な解釈で描かれていたのが印象的でした。他人との付き合い方と自分との付き合い方の部分だよね、結局は...。

 

それよりも何よりも強く印象に残ったのは、これはやっぱり東日本大震災の後に描かれた、影響された作品(監督)なんだなぁというところだった。土地、社会、個人、遺族、死人、いろんなものがかなり暗喩として存在していた。更にいえば、映画としての焦点の当て方が何よりも影響を受けたと感じさせるものだった、と思う。

私は「もうさぁ明日のことだけ考えて生きていこうよ」の台詞に抉られた。この台詞の背景とシーンとしての背景と差し込まれるタイミングの全てがあまりにも一人の人間の言葉として肉がありすぎて泣いてしまった。

 

そうだね。

 

 

今、こうしてリアルタイムの我々はこの作品を通して現実を見てもう一度作品を見て、そこには自らの脳に宿る言語化以前の経験としてのフィルタがあって、それが作品に対する評価におそらく強く反映されることだと思う。

これが50年後、100年後だったらどうなんだろうな、と思う。

我々は知識として革命や黒死病や世界大戦の地獄を伝え聞くけども、その時代の物語に込められたものに、作者の心に気付くには知識とそこから揮発する想像力という燃焼材をこれでもかと燃やし尽くさねばならない。

結局のところ、共感というものが呼び覚ます感動は凄まじい。

そしてリアルタイム、というものの強みはそこにあるなと思った。

ちゃんと生きている間に、ちゃんと自分の感覚が生きている間に観れて良かったです。

 

 

*1:リリカルなのはにはあります