まるでマングローブのようにはさすがに嘘、音に惹かれてズゴット

病院へ行く予定があったので火曜の午後を休みにした。

思ったより早く終わったので、国道沿いのチェーンのカフェに入る。遅めのランチだ。ガレットとコーヒーを頼み、新聞を読んで、駐車に難航しているデカくて白くて四角い車を眺めていた。料理が運ばれてくる。

春のパン祭りで貰える皿の限界を超えた大きさの皿に、ガレットとチーズとスモークサーモン、そしてサラダが美しく盛られている。深い藍色の皿の上で緑色のサラダは映える。まるでマングローブのように…。

カフェで出てくるサラダってなんでこんな美味いんだろう。新鮮な野菜に既製品のドレッシングかけてるだけだろうに、家で同じことをすると「栄養のために野菜を摂取している感」が否めない。ああ、違う違う、喫茶店で出てくるキャベツの千切りとコーンが入っているタイプのサラダじゃなくて、全てが正方形に千切られていてフォークでザクザク食べるタイプのサラダの話だ。紫色だったり濃い緑だったり、様々な葉が入り乱れ色鮮やかになっているやつ。逆にキャベツとコーンのサラダはどこで食べても一緒だ。

もしかして照明だろうか?

確かに、カフェの照明はやたらと料理を輝かせる。新鮮な野菜達はオイルをかけられてキラキラテラテラしていて、いかにも健康そうだ。光るものに対して常に希望の匂いを感じてしまう。ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドでは、光のある方向に向かって走ったり登ったり滑ったりしていれば大抵、祠があった。光に導かれてハッピーなリザルトを得るという成功体験が、サラダを美味くしているのかもしれない。

 

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もう今週で終わりで良いですよ、と言われた病院を後にしてイタリアの国旗を掲げた読めない名前の喫茶店に来た。ケーキセットを頼むと、クラシカルメイドエプロンの給仕がケーキを幾つか持ってきて、どれにしますか、と聞く。

数秒迷って、ズゴットというケーキを選んだ。兵士だか聖職者だかの帽子がその名の由来かもしれないと言われているらしい。これはコーヒを待っている間に調べた。大きなドーム型のケーキで、中にはクリームが詰まっていて、切り分けると「いっぱい甘いクリームが食べたいんでしょ〜!」と言わんばかりの見た目になる。魅力的な地球の地殻とマントルのようである。こういうの資料集の図でよく見たな…と思いながらフォークで切り分けて食べた。甘い、美味しい。

そういえば私はZから始まる音はこういうリズムの言葉が好きだな、と思い出す。

子どもの頃、ポケモンアニメが流行っていた。あの頃はポケモンも151匹しかいなくて、その151匹の名前を覚えて全部言えるようになるとスゲ〜ぜ!という煌めきの元、『ポケモン言えるかな?』という歌があった。メロディに合わせて151匹の名前を言いつつ合いの手でランラン言うだけの歌だったが、私は「ズバットギャロップ」という部分が好きだった。ズ、で濁ったまま“ット”で上がり促音になってギャロップで濁り音が下がる……そういう暴れ馬で荒れ道を駆け抜けるような御しがたい爽快感が好きだったのだ。

何かを選ぶ時に、思いのほか言葉の気持ちよさに惹かれていることがあるな、と思いながら皿に残ったクリームを掬った。甘い、美味しい。ズゴットは名前も良いし中身も良いケーキだ。