文章

火事場に白檀

本文 校正による栗饅頭の変移 本文 茫洋とした夕暮れに惑いながら赤信号で車を止めた。西の空が、最近見ない歯磨き粉みたいな色をしていて、右手に持った栗饅頭にわずかに力が入る。虫歯のような気がしているが自律神経の乱れのような気もしている右奥歯の痛…

彼岸の雷鳴

絡み付く真夏の雨に彼の拙い弱さを思い出していた。 どうやら私達は雨雲の流れる方向とは逆に走っているようで、サイドミラーにちらりと映った遠くの空はまるで世界の終わりのように黒ずんでいた。 強い雨音に掻き消されているが古い音楽が流れているのが分…

夏の九月

地平線が暗い黄金に輝き、頭上では深く澄んだ青色の昼間が少しずつ星々に呑まれようとしていた。 指先から夜が伝わってくる。 行くあての無い生命が風に揺れていた。 僕だ。あの頃、このくらいの時期のこの時間に迷子になることができた。 河原だったり路地…

遥かなる春が鳴る

薄い青空が果てし無く続き、さよならの匂いがした。春目前、雪が積もるこの土地では未だ冬の名残を含む冷たい風が流れ、咲き始めたばかりの梅を揺らす。カーディガン一枚羽織るだけでは少し寒い。廊下では帰り支度を始めたり、これから卒業生を見送るのだと…

空中リプライ

僕も好きですってあなたそれ誰にむけてるの虚空に舞い上がる愛の告白の返事誰にむけてなの、誰から好きですって言われたの虚空で手元を離れた気持ち悪い風船みたいにふわふわ、或いは安っぽい薬局のチラシで作った紙吹雪みたいにあなたのリプライ空中で浮か…

銀色思想汚染

窓の外には重たげな雪が降っているまた道路が白く染まっていく漠然とした不安を抱えている(誰が?)口に出してもどうしようもない寂しさを自転車に括りつけて「配達してください」ってサドルに書いておけば届くかしら(何処に?)夜明けの匂い日没の香り君…

グッバイ・イエロー

すごいみんながんばってる。あたしはとっても高いところからそれを見ていた。大人はみんなあたしに勝手な期待という名の妄想を押し付けてきて、あたしはあんまり頭に来たから数学のマークシート、全部一個ずつずらしてやった。数?B、きっとセンセイは吃驚す…

寒椿

涙が止まらない儘に多分ずっと走り続けてきた物凄い速さで進んでいく、変わっていく。自分の周りは驚くほど早く変化に適応しているテキオー灯欲しかったな。したかった事はいくつかあったけどそれらはやがて思い出になっていって今、もう毎晩のように夢の中…

囲う苦痛/過去 鬱屈

もしかしたら私は五千年生きていたのかもしれない、と思った。少しずつ抜けていく記憶、混ざりつつある思い出に怖くなった事もあった。8年前の事だったからしら、9年前の事だったかしら。私には弟なんていないのに、この記憶は、現実ではないの。あの日読…

すかいぶるうブルース

おはりるおはりる朝から虹をみたですのん吐息は微かに白く少しずつ空気が冷えてゆくのがわかりますの今日の東もきりりと綺麗ですね光がいけしゃあしゃあと雲間から覗いてましたいけしゃあしゃあって擬音じゃなかったのね本当の事をいうと 知っていました。よ…

彼女は悪くないんだ、ただ少しばかり自分を見失っていただけさ。

トワイライト・ラヴ黄昏の時間 しばらくは君の為パーソナル・コンピュータぼくだけの計算機パーソナル・コンポーザーぼくのために作ってパーソナル・コンセンサスみんなぼくのものラヴ・コピーライト君の為にあるのよ この権利。死んだ観覧車を見に行こうな…

#flat

私のカメラには夜明けと夕焼けの写真ばかり詰まっていてふと見直すと、どちらがどちらか解らない。空が朱に染まっている美しいものを美しいままに、その瞬間を切り取りたくてカメラを買ったのに何の変哲も無い、ふと腕を持ち上げてシャッターを押したような…

白々しい白

泥水みたいな珈琲が運ばれてきて、大して可愛くもないウェイトレスが伝票を置いて去っていくのを確かめてから、私は目の前の男の子にもう一度きいた。それで幸せになるためにはどうすればいいの。男の子は皿にでんと盛られた生クリームを頬張りながら、うん…

文字渦の海

わかるかなぁ、と彼女は言った。なんかもうね、あぁ君はこういう人なんだなぁって分かっちゃったんだよね、と言った。申し訳なさそうに、言っていた。ローテーブルを挟んで、もう終わりにしようって呟いた彼女。わかったよ、と僕が言ってから、彼女は楽しか…