2023年のこと[小説・ノンフィクション編]+2023ベスト

前回こういうの書いたの2023年2月なんだって…ということで10ヶ月分を雑にお届け。そしてもう…2024年にナッチャッタけど…構わずベストも出していくぜ!な回です。

今年は書いていくわよ、ブログを…!

小説

文明交錯/ローラン・ビネ

銃・病原菌・鉄を持ってインカ帝国がスペインを征服していたとしたら?という歴史IF小説。少しずつ正史から外れていく出来事が数世紀を経て一気に歴史の歯車を逆回転させ出す様は小気味良く、読んでいる最中のワクワクが止まらなかった。

NHKスペシャル アンデスミイラ、インカ、マヤ

インカ帝国おもしれ〜!となって読み漁った本たち。冒頭に恩田陸旅行記が載っており、一気にその場所の空気や手触りが脳内に広がっていく。恩田陸は、小説のリアリティを場から起こすタイプ、とご自身でも仰っているとおり「場所」の想起が恐ろしく巧い。

インカの王は死後も生前と同じように従者や財産を保有し続ける。即ち次代の王は自らの財を為すべく国家を拡張し続けることになる。同様に市井においてもその存在は死後で断絶されない。それは乾燥の激しい彼の地では死体が腐らずミイラ化するため、死によって失われるものが我々とは違うのだ。環境が変われば死生観(文化)も異なるというのは演繹では認識していたものの、帰納的に理解できたときに初めて理解となった。

ってことは南米にはミイラとかゾンビ、幽霊はいないのかな。南米ホラーにも興味が出てきたぞ。

世界って面白ェ〜!と自分の知らない領域が一気に開けてきて久しぶりにワクワクしている。(継続中)

花びらとその他の不穏な物語/グアダルーペ・ゲッペル

一作目の眼科お抱えの写真撮影師がまぶたに執着する話を読んで「作者、女性だな」と思った。(そして合ってた)性的でない身体の一部分へのフェティッシュの描き方は女性作家が上手い気がする。というか、書き手は女性だろうなという独特の文の生暖かさがある気がする。小川洋子とか…

人が幻想じみた現実に触れた時に抱えることになる虚さみたいなものを描くのがとても上手くて、読了後もその感情が読み手に残り続ける。そういう小説だった。

そして私たちの物語は世界の物語の一部となる/インド北東部女性作家アンソロジー

インド北東部の女性作家に限定したアンソロジー。口伝でしか残らない民話、そこにある文化という背景を持つ物語たち…を収集し、「残すし伝える」ことを目的として編まれている。タイトルが示す通り「そして世界の物語の一部となる」のだ。

一日四食食べるとか朝起きた時の音や匂いが違うといった異なる土地と慣習によって生まれる異国の幻想もあれば、「娘が強姦された場合、被害者の娘の父親が相手を赦すことが何よりの義である」といった現実の倫理観の悲哀を詳らかにする物語もある。

フィクションとは大衆による想像力であり、大衆のその想像力を育てるものは何だったのか「何」を探るためにどうしてきたのか、みたいなところが娯楽の一歩先の作品鑑賞という嗜みであると思う。そしてまた逆説的に「何」を描き周知するために文学という手段が取られることもある…というのがよく分かるアンソロジーである。

塩と運命の皇后/ニー・ヴォ

純然たるファンタジー。歴史収集家である聖職者チーの旅路という形で二編が収録されている。

表題作である『塩と運命の皇后』は50年ぶりに封印が説かれるという湖のほとりで、謎めいた老女から追放された悲劇の女王の伝説を聞く話である。髪の色、女王の誇り、従者の敬愛その一つ一つが細やかに描写され、老婆の語りは読者の心をも掴んで離さない。王道の語り手によるファンタジーである。

主人公の相方であるヤツガシラ(鳥)のオールモスト・ブリリアントって名前のコミカルな感じが良い。この名前の存在によって、読者に語られていることすべてが虚構じみてきていて、この固有名詞は全体の良いスパイスになっているなと持った。(ヤツガシラ、調べたら意外とかわいい目をした鳥だった)

二編目の『虎が山から下りるとき』は人間に伝わる虎の英雄譚を、今にもチーらを喰おうとしている虎の”陛下”へ語る話である。私はこの手の「化物相手に語りで一夜を凌ぐ」シェーラザード的な物語の型がとても好きなので、非常に楽しく読みました。虎が一応ヒトガタをしているっぽいけれど、端々に猫科が感じられてカワイイ。英雄譚はそのまま異類婚姻譚でもあるわけど、これがもう萌え!なんだな…。

 

上述の鳥の名前もそうだけど、「かわいい」「残酷さ」「神秘」が本当にうまく配合されており、それがこれだけのリーダビリティとワクワクを作り出したと思う。それから、本筋の語りの端々に現れる、物語の説明のない脇役達が凄く良かった。龍会議だとか歩く犬の呪いとか、試験で死んだ受験者の幽霊の怒りとか)呪いや幽霊の存在が当然の存在だとか、そこにある節理がその世界の住人にとっては常識なんだと分かる描写も良い。エルフや魔法のファンタジー感よりも、「そういう風に世界が回っている」という摂理の方にロマンを感じる。

あと表紙の絵がすごく良くて、ちゃんと物語の中のアイテムが散らばっているのも「不思議の書」という本自体の雰囲気があってとても良かった。続編が楽しみ。

忘らるる物語/高殿円

燦という大国が支配する世界で、貧しい辺境の女王であった環璃は突如生んだばかりの子を奪われ、「皇后星」として次の燦帝候補である四人の藩王のもとを巡ることとなる。滞在中に彼女に子を孕ませた王が、次の王の親となるのだ。しかし、その旅の最中で触れた男を一瞬で塵にする不思議な力を持った女と出会う。女を「帝を産む存在」としか見ないような、あの、男たちを一瞬で塵に!

旅の中で露になっていく「支配される側」としての女達の嘆きと強い怒りは環璃とともに旅の果てまで辿り着く。その時、そこにあった「忘らるる物語」とは…というファンタジーである。

 

地理や因習や神と科学の在り方も精密で、美しく重厚に練り上げられている。世界観を読み解いていくのがとても楽しい。一方で、現実の世界が孕むジェンダーや搾取される側としての女という問題をかなり強くテーマの骨と肉にしており、その怒りがあまりにも強く、参ってしまう。苛烈、とてつもなく苛烈です。ここまでしないと伝わらないでしょという作者の熱意もひしひしと伝わってくる。極上のファンタジーという皮でもって読者の心にまで侵入してくる、その気概は真のものである。

鈍色幻視行/恩田陸

ここ数年の恩田陸長編で一番面白かった。一気読みでございました。

時代に全力で並走する作家なんだという胆力を強く感じたし、小夜子から脈々と継がれている真実と虚構とミステリへの思想がどんどん研ぎ澄まされている。とにかく描写とその補足が上手くて、視覚情報以外のものをセリフとか人物のリアクションで補完するから場の絵が簡単にイメージできる。リーダビリティの鬼、あとこんな語り手とアングルを混ぜこぜで書いて話がスムーズに分かるってあたりも凄い。

アブソルート・コールド/結城充考

コテコテの王道サイバーパンク。固有名詞のネーミングと背景美術への強い拘りが良かった。想像するサイバーパンクの全てがある。でも想像通り過ぎるところもある。

ウェルテルタウンでやすらかに/西尾維新

めっっちゃくちゃ面白かった……。とにかくおもしれー小説を、夢中になってテンポよく読める小気味良い小説を、書くぞォオオって書いてる西尾維新先生がもう痺れるくらい格好いいわね。

ノンフィクション

教養として知っておこうではなくて、『文明交錯』からインカを色々読んでオモシレ~となり、人類とか世界がどうなってるのかちゃんと興味を持つようになって、いろいろ読んでいた。興味を持つと、同じことをやっていても愉しさが全然違う。せやね。

2030年の世界地図/落合陽一

テクノロジー、政治、環境と分野も多岐にわたっており、ざっくり今を知るにはちょうどよかった。落合陽一、ミクロなことを語っているときは好きになれないな~という感じなのだが、マクロな命題に関しては鋭く視座に富んださすがのお方なので、テーマに合わせて読むといい。と思ってる。個人の感想です。

2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望

世界のリアルは「数字」でつかめ! /パーツラフ・シュミル

これもまぁそういう系統の本。数字やグラフの綾を解く本ではなく、「こういう風に社会は動いているようだけど、これは実際どういう数字に基づいた出来事なんだろうか」という切り口で処々の問題を見ていくという本。一節あたりが短くて読みやすい本だった。

Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ!

池上彰教授の東工大講義[世界篇]
この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義
池上彰教授の東工大講義 学校では教えない「社会人のための現代史」 

結局、池上彰の解説本が一番読みやすい。こういう「とにかく導入で1冊さくっと読んでおこう」みたいな時にはまず池上彰に頼っている気がする。

AI vs教科書が読めない子どもたち

煽ってるタイトルだな~と思って発売当初は白い目で見ていたんだけど、AIに言及している自分が読んだノンフィクション国内本でも多くがこの本に言及していた(そしてフォロワーも割と読んでるっぽい)ので、読んだ。私はフォロワーを信頼している。

結果的にめちゃくちゃイイ本だった。読了するとタイトルが煽っているわけではないのが分かるし、AIの限界を見極める研究と、そこから遡及的に見えてくる人間の読解力という問題を扱った非常に誠実な本だった。オススメ。

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

 

2023年ベスト

1位:文明交錯/ローランビネ

特別に面白かった本は他にもあるけど、この本を読んで、初めて世界に対してまともに興味を持っていろいろ読み始めたので、自分への影響という意味ではこれが今年のベストです。

2位:ループ・オブ・ザ・コード/荻堂顕

あまりにも面白すぎて、数ページ読んで読書会を設定した。荻堂顕という作家を知っただけで2023年に意味がある。ポスト・伊藤計劃は伊達ではなく、そして恐ろしく小説が巧い。詳しくは以下の記事をご参照のこと。そして、黙って読め。

2023年1月のこと - 千年先の我が庭を見よ

『ループ・オブ・ザ・コード』―感想メモ - 千年先の我が庭を見よ

3位:最愛のこども/松浦理英子

この小説を読んでいるのと、読んでいないのではたぶん自分の中の感情が違ってい来るだろうなという小説。時々あるよね、そういうの。ソラリスとか。あと自分の中の十七歳の私がこれはベストに入れなよって笑っている。分かってるでしょ?

群れによる語りと鮮やかな日々『最愛の子ども』 - 千年先の我が庭を見よ

まとめとか今年(今年にナッチャッタ!)の抱負とか

2023年は「あんまり読んだことのない国の小説を読もう」と思っていろいろ読んだ年だった。知らない国を知るのが楽しい、という当たり前のことを実感できており、この目標?は継続中。

2024年は

・WWシリーズの感想をちゃんと書きたい

・というかそもそも今年はもっとブログを書くぞ!

・テキストアドベンチャーゲームとも上手く付き合っていく

という感じで頑張っていこうと思います。

 

今年もよろしくお願い致します。

 

 

kiloannum-garden.hatenablog.com