『ループ・オブ・ザ・コード』―感想メモ

★部分

・ポスト伊藤計劃、ポストコロナ文学としてはド直球だが、それを御せるだけの手腕がある。台詞回しも展開もCOOL

・とにかく主人公の、人生で煮詰まれてきた感情の描写がうますぎる。

・取り扱っているテーマが多いのに、それをこの一冊に上手くまとめ上げているのは凄い。

・テーマに対して、ただ理論を並べ立てるのではなく、作中の人物たちがそれぞれの立場から彼ら自身の人生を踏まえた「思想」として、意見や対立が描替えれている。作者の、テーマに対する向き合い方の誠実さを感じる。

・文化的儀式で問題を解消するというのは良かった。視覚的にも良く、読み心地が晴れやかになった。まぁ私が儀式とか美しい手順が好きというのもある。儀式が救うものがある、という思想が好きだな…。祈りは愛、愛は祈り…。

・オープンしたショッピングモールにスパイラルエスカレーター!

 →世界でただ一つ、三菱電機だけが生産する、あの!?

https://www.meltec.co.jp/useful/technology/1199886_1625.html

 

★全体として…

アイデンティティ(自分らしく生きていくこと)とルーツのどちらを選ぶかという残酷な二択を迫られてしまう生き方がある」という話だと思う。

 →イノグラビムスというルーツを奪われた国民があり、家庭というルーツから逃れられず壊死を選ぶ子供たちがあり、自身のルーツを棄てた主人公がある。

 →どちらを選ぶかに正解はない。なぜ正解がないのかを描く物語だったのかなと(アイデンティティを選ぶのが賢い選択に見えるが、それは姉クロエや主人公みたいな強者にしかできない)

 →でもルーツを取り戻すこともできるし、新たに作ることことだってできるんだよという希望のメッセージで物語を終わらせている。(だから主人公が最後にその選択する?という部分は感情面ではいまいち納得感がないけども、テーマとしては整合性のあるオチかな…)

 

★好きなシーン

主人公が回想で片思いしていた学生時代のシェフの友人

「名前は知っているし、調べれば繋がることはでいる。だが、そうしなかった。何よりも、虚しい思いをすることになると分かっていた」

ここの感情の解像度高すぎる、私も心当たりがあるよ…。