数多の光とともに/不夜島<ナイトランド>

 

架空の第二次世界大戦後、敗戦した日本の琉球の最先端の与那国島、そして台湾を舞台にしたサイバーパンクである。義体を規制された戦後日本と電脳技術の黎明期たる世界。技術と社会が混じり合った過渡期…人間の想像力と現実の汽水域を楽しむには最高の背景だ。

腕利きの密貿易人である武庭純は、「含光<ポジティビティ>」を手に入れろ、という命を受け、含光とは何なのかさえ知らないまま奔走する。闇市場に出回る義体、電脳は知能の公平な分配と唱える共産主義、踏み荒らされていく土地の者たちの意識、氷のような思考とともに誰よりも激しく踊る毛利巡査、とんでもない掛け金となった賭博に熱狂する者共、死、多脚戦車、電脳が故障しており戦後を認知できず狂戦士となった大尉、が入り混じり、物語は転がり続ける。不夜島となったその場所で、数多の光を巻き込みながら。

 

以下はネタバレアリの感想です。

 

とにかくストーリーに勢いが無くなってきた頃に視覚的な興奮を作る構成が上手い。屋上で楊さんと煙草をもらい受けるシーンなどはその典型で、

俺がマッチを擦るのに合わせて加えた。先に火を点けてやり、煙草同士で火をもらい受ける

この見栄えのいいシーンを、自然に、そういう仕草が必要なタイミングで、挟んでくるのだ。感情を読む気持ちよさに加えて視覚的な興奮が挟まることで、退屈する隙がない。退屈する前にそれに毛利巡査は踊るし、熱狂する賭博に打ち込むことになる。

更に、日本刀サイバネティックニンジャとの闘いとか「俺自身が銃架になることだ!」とか面白小ネタを挟んでいるのに、流れが白けないところが読んでいて本当に楽しいし気持ちいい。ちゃんと面白くなるために伏線を貼ったり小道具を揃えたり、読み手のテンションを整えてから「オモシロ!」を出してくる。長編小説を書くのが上手すぎる!

キャラクターも魅力的で、特にナウシカア少佐、デカいのが良かった。この手のキャラクターで美少女とかではなくただただ身長がデカい、というキャラクター性が痺れる。口調もラスボス感があってゾクゾクする。

この小説、とにかく褒めるところしかない。

 

前作『ループ・オブ・ザ・コード』でも感じたが、死とは一瞬、という理念があると思う。本作でもキャラクターが死ぬが、死に際にも別れにもほとんどページが割かれておらず、それがかえって死という喪失を際立たせている。そうだ、現実では特別な死があったからといって、それまでの時間(物語)の流れは止まらないものだ。立ち止まって茫然としている余裕がある状況で死に立ち会うことなど望めない。死は常に突然で、(社会の中で生きている)遺されるものにとっては、流れゆく人生の一つの点でしかない…という作者の理念のようなものを感じた。

 

数多の光。それは喧噪絶え間ない眠らない島であり、希望であり、余すところなく見ているという闇を許さぬ目であり、含光であり、ミラーボールであり、人生の輝きであり、爆発である。

そしてそれらを巻き込み、物語は進んだ。巻き込まれた後はどうなっているのか。最後に通ってきた道を振り返ることになる。

そこには光が失われた道がある。