2024年冬のこと

小説

好き?好き?大好き?/R.D.レイン

愛がなければ応えられないだろう、という問答や様相をいくつも描いた詩集のような作品である。

そこに表されている愛情を文字から読み取るよりも、気が狂うようなコミュニケーションに対して相手を尊重した受け答えを最後まで貫き通している、という見えない受け手の方の精神構造を想像するのがこの作品の鑑賞の仕方であると思う。

でも個人的な感想としては、特に響くものは無くそういう文学だな、という感じだった。これは私がもうすでに自分にとっての愛というものの定義を確立してしまっているからだと思う。文学は解釈の余地がない人生には響かない。愛の定義を確立しておかないと上手くやれない人生を送っている。

湖畔地図製作社/長野まゆみ

手のひらサイズのスコープオブジェを覗くとそこには幻想的な景色が広がっている。その限られた小さな世界の写真に、長野まゆみによる同じくらい小さな物語が寄せられている…という作品である。小説ではない。

選ばれる言葉の美しさはさすがで、たった数行の言葉が、果てしない物語の一片のように思えてくる。

でも、これも個人的にそれほど心に響かなかった。美術館で本当に見ていればもう少し違ったかもしれない。写真ではなく、自分が本当に覗いて、静謐な空間で体験として読めたらもう少し幻想に酔えただろうなと思う。

不夜島/萩堂顕

2024年ベストです。暫定ではなく、もうこれがベストです。全員読んでください。

kiloannum-garden.hatenablog.com

ノンフィクション

イラク水滸伝高野秀行

氏の冒険譚はとても好きで、今までも何冊か読んでいる。なんと単行本で500ページ弱という超大作。

今回はアフワールと呼ばれるイラクの湿地帯を巡る。その湿地帯がアウトロー好漢達の逃げ込み先であり反抗拠点となったという歴史を知った高野氏が、「水滸伝じゃん!」となりその実態を探りに行く冒険譚だ。

現地のヒトの温度感、価値観に振り回されながらも馴染んでいくさまが克明に書かれており、「湿地帯」という場にそこに住む人々の中に入ることで、社会と歴史が編み上げてきた実態を解きほぐしていく。だってそうだ、そもそもその調査方法が「伝統のカッコイイ船を作って貰って、それに乗って湿地帯を巡れば一目置かれて安全に調査できるんじゃない?」という発想がスタートなのだ。文化の内側に触れるために費やす情熱と氏の知見がそこにある。

その伝えることへの情熱はきちんと読者へも注がれていて、とにかく読んでいてオモシレー!という純粋なワクワクがある。強力すぎる相棒にして川のプロという先輩という相棒だったり、愛の歌を歌う船頭だったりと出てくる人々の個性が魅力的だったり、珍しくておいしそうな食事だったり、知らない文化に戸惑う日本人としての姿だったり、「世界って面白いんだぞ!」という目線で見た世界が味わえる。

そうか、世界って知らないことがあって面白いのかもしれないな、というポジティブな感情が得られる冒険譚というのはとても素敵だと思う。

遺伝子が語る免疫学夜話 自己を攻撃する体はなぜ生まれたか?/橋本求

アレルギー、免疫疾患など「自己を外敵から守るはずの身体の仕組みが、自己を攻撃してしまう」のはなぜか?という免疫学について医師が語る本である。もう少し厳密に言えば「そういう生命にとって不利なはずの仕組みがなぜあり続けているのか?自然淘汰されるものじゃないの?」という一般人のフワっとした気持ちをスタートにして、人間がどのように進化して免疫はどのような仕組みなのかを解説している。

門外漢にとっても読みやすくて興味深い内容だった。

何より、これを読んであれやこれやのSFの彩度が上がった。ちょうど今『ロボットの夢の都市』を読んでいて、腸内細菌信仰が出てきたのでウンウンそうなるよねってなっちゃった。そういう感じ。

おすすめです。

ゲーム

スーパーマリオブラザーズ ワンダー

ワクワクドキドキ大冒険みたいな愉しさを期待してたのに、絵面とファンキーフラワーが愉快なだけの苦行アクションでもう距離置いてしまった。

素早い決断と素早いボタン操作が求められるものが苦手なんだ!ゆっくり考えたい。まずマリオというゲームに向いてないタイプである。それはそう。

今は人がやってる横で「地獄~~!」と笑いながら時折ギミックを発見する係をやっている。

ゼルダの伝説 ティアーズ・オブ・ザ・キングダム

正月に買ってからずーーっと2か月間遊び通しである。やっぱり面白かった…。

「地下を探検する」というのが嫌いだ。暗くて見通せなくて現在地が分かりにくい、というのが苦手なのだ。RPGではやたらと地下水道やら廃坑を歩かせたがるが、毎回不快であった。ということで、ティアキンでも地下と洞窟にはうんざりしているが、一方で見通せる空と地上マップはもう楽しくてしょうがない。上下に移動できるって最高かよ!

空と地上をシームレスに移動できるってこんなに楽しかったんだ、とコンセプトに五体投地している。

 

でもやれることが多すぎるので、ちょっと食傷気味だ。細く長く遊ぶゲームなのだろうか。あと根本的にゲームの操作が苦手なので、ウルトラハンドにもストレスを溜めている。でもトーレルーフは楽しい。上下に移動できるって最高かよ!上下大好きマンなのかもしれない。シャトルエレベーターも好きです。

 

そういうものと言われればそうなのだが、RPGの「無口な主人公」には人間味がない。加えてリンクはなんだか負の感情は見えないし、ゼルダにも何の感情も抱いていなさそうだし、お役目のためだけに生きている英雄そのもののような虚しさがあった。でもティアキンでゾナウガチャを回してカプセルがたくさん出て来た時に「オッフォ」と初めて喜びと驚きの混じった声をあげていて、あっリンクも人間(≒感情を持つ個人の意)だったんだ、と感動してしまった。ガチャで見える人間性、こんなとこにもあったんだ。

 

今は、ハイラル城にもう一回行けと言われて、どうせまた中ボスと戦うことになるんでしょ…嫌じゃ嫌じゃ…と道草をしている最中である。食傷気味でもあるので、youtubeで楽しいウルトラハンド動画を見たりなどしている。でも操作がへたくそなんだ!まぁでもプレイしてない時間もゲームのことを考えられるゲームはやっぱり傑作なんだなぁ…と思うのだった。