2023年2月のこと

チルアウトというエナドリの真逆ドリンクを買ってみたのだが、飲むタイミングが全然わからない。リラックスしたい時、すでに布団に入ってる。そんな二月だった。チルアウトはまだ冷蔵庫の中で佇んでいる。 

小説

ババウ/ディーノ・ブッツァーティ

表題作たる『ババウ』の良さが突出している。「夢の中に入りこむ夜の巨獣の退治譚」ってあらすじがすべてで、それ以上のことは何もない。でも、この「それ以上のことはない」という物語の描かれる領域の設定が異常に巧い。脇道や世界に存在する情報や常識を一切纏わないソレは、創作の虚構っぽさも、地続きの現実っぽさもなく、「どこかの誰かの脳から出てきた集合体」としてニュートラルな読み心地を与える。読み終えたとき、心はどこに行けばいいのか分からない。そう、でも心を露頭に迷わせておくべき一夜って時々あるのだ。長い人生においてはね…。

人里離れたアルプスの一角にある療養所で行われている驚くべき安楽死法を語る『誰も信じないだろう』、子どもたちが楽しい物語のようにせがむ交通事故の話の数々『交通事故』が印象的だった。

いずれすべては海の中に/サラ・ピンスカー

何よりも表紙が良い。タイトルがさかさまなのも含めて素敵だ。

短編集だが、どれもお話の中にどこかに一つの虚構があるにも関わらず、それがファンタジーに感じられないような浮ついた現実がベースにあるのが特徴。それは、自分の腕がどこかの高速道路の意識と連結しているだったり、架空の建物を設計し続ける夫だったり、いないのにいる子どもだったり。

その読み心地をフシギと味わうか・薄ら寒いと味わうか、というカクテルのようなSF短編集だった。

君のクイズ/小川哲

クイズ大会において問題文が読まれる前、ゼロ文字回答をした対戦者のそのトリックを、図らずしも主人公の人生とクイズを紐解きながら、解き明かしていく物語。図らずしも、という表現なのは、思考にクイズが絡みつくほどのめり込んできた彼の人生は、思い出も知識もクイズとともにあることを再確認させられていくから。(もちろんそれは呪いではない)

小説内で選ばれているTwitterなどの現実の固有名詞のチョイス、キャラクターから想起される読者の感情、構成から得られる読み心地の快・不快、全てが作者によって計算されている。読み終わった後に色んな感情がわいてくるんだけど、考えてみると「そう感じるべく」書かれているな…ってのが分かってくる。そして綿密に組み立てられた完璧な小説は、当然謎解きとも相性が良く、冒頭の引き込みから徐々に解きほぐされていく謎を追ううちにスルスルと読み終わる。そんな感じ。ページを捲る手が止まらなかった。

物凄く面白い小説ではあるんだけど、好きかと言われるとウーンそうでもないな…。

嘘と正典/小川哲

こっちも読んだ。短編集。

物語の造りがもの凄く巧いのは分かる。でもなんというか、私は小川哲の人間とか現実の描きかたがあんまり好きではなくて、それゆえにあんまり読んでて楽しくない(小説がつまらないとは別)だなという感じ。工業的な美しさであって、芸術的な美しさではない。でも美しいものは受け手の趣味を超えて価値が分かるあたりに、小川哲の凄さがあるんだろうなとは思う。

あらゆる薔薇のために/潮谷験

昏睡が続く奇病を治す特効薬が開発されたが、それは副作用として身体の一部に薔薇のような腫瘍を残すこととなった。今、その特効薬の開発者たる医者とその病気の元患者が立て続けに殺される事件が起きて…?という話。

奇病、薔薇の腫瘍、そして事件の核心、とフィクショナルな部分が虚構の域を出ておらず、巻き込まれている大人達の真剣さが少し滑稽に見えてしまった。まぁつい先日、『ループ・オブ・ザ・コード』という大作を読んでしまったので、比較的そのあたりのリアリティラインの作りこみが浅く見えてしまうというのもあるけど…。

ミステリィとしてもそこまでパンチのある展開でもなく、SFとしても怪奇としても微妙な小説になってしまっていると思う。

キドナプキディング/西尾維新

完璧に大団円を迎えた物語の先だ。そんなのどうしたって蛇足でさ、設定の使い回しで、セルフ二番煎じになるやろって思うじゃん。ウソウソ、西尾維新だからそんなことぜーんぜん思わなかったし、戯言続編!つって発売までドキドキムネムネワクワクしてたよ。

そんで読んで、ヒャッホー!これが戯言だァアア!バチクソ面白いジャーン!ありがとーー!もっとこのまま続き書いてェーー!ってなりました。読んでる最中に、高校の頃に夢中で読んだ戯言とその周りに漂う日常の思い出がブワァアと吹き出してきて青春に押し潰されそうになった。でもたぶん、みんなそう。

料理

割合で覚える和の基本

★★★☆☆

最近ちょうど「料理ってもしかして”甘さ”でコントロールされるものなんじゃないか!?」みたいな境地に辿り着いていたのでタイムリーに良い本だった。

覚える、と書いてあるが何をどういう割合でいれるか味付けやレシピを覚える本、というわけではない。和食って基本は醤油と本みりん(みりん風調味料ではない)でええんや、という基礎があり、その基礎論とともにそこから和食の味付けの展開を説明している。

一回読んでおけば、勘で料理をするときのレベルの底上げになる本。

料理上手になる食材のきほん

★★★★☆

上の本を読んで本棚から引っ張り出してきたのがコレ。

これもレシピ本というよりは、肉魚野菜について、旬や味のクセ、下ごしらえの仕方などが書かれている知識本。読み物に近い。

たとえば葉物は水にさらしてからゆでると内部の水分によって熱が通りやすくなり綺麗な緑色になるとか、豚肉はこの温度で硬くなるから、とかそういったちょっとした「綺麗に料理するコツ」みたいなものが載っている。そしてやっぱり旬を知っている方が、料理は楽しい。(特に魚)

ヤミーさんの基本7つのスパイスで世界中の料理ができちゃう!

★★★★☆

チャイを手軽に安く飲みたいなと思い、シナモンとクローブとカルダモンを揃えた。でもチャイのためだけに使い切れないよなぁと思い、スパイス料理を色々見ている。この本は、ちょうどそういう「コレって使い方は一個知ってるけど、それ以外どう使うねん」なメジャースパイスをちゃんと活用できるレシピが載っていて良い。シナモンとレーズンの鶏肉煮込みを作った。かなり美味しかった。

次回予告

・お前…前回の次回予告の殆どが…出来てないやんけ…

・WWシリーズ最新刊が4月に出る(うきうき)