Twitterや読書会のメモの寄せ集めではある。
小説
レオノーラの卵/日高トモキチ
以前アンソロジーにて表題作『レオノーラの卵』を読んだことがあり、かなり良かったので短編集を購入。
つかみどころのないような、少し不思議な話が多い。少しとぼけた感じの語り手、最後までなんだかよくわからないマクガフィン、出てくる必要のない登場人物、など全体の雰囲気は非常に好みだった。ただ、会話のテンポが若干悪く、だれが喋っているのかわからない台詞が並ぶことが多い。元が漫画家ということなので、確かに漫画だとこのテンポでギャグになるんだよなぁというのもよくわかるところ。
まほり/高田大介
・村に蔓延る蛇の目紋、隠匿された少女、余所者を敵視する村民…と王道の場所でこの不穏な田舎の奇習とは何なのか?そして”まほり”とは何か?を紐解く民俗学ミステリィ。
・社会学専攻の大学院生を通して物語は進むのだが、「ちゃんと勉強している大学生」なので、しっかりアカデミックな調査をするんだよな。つまり我々は彼を通して架空のフィールドワークをすることになります。史料がめちゃくちゃたくさん出てくるし、大学教官やら博物館館長などの有識者も出てくる。運と勘所の良い探偵やら記者が首を突っ込むのとはワケが違う、何故ならいまは令和だからです。
・不穏な田舎の奇習に囚われし少女を助けるのに、外から来た男の「それって児童虐待ですよ」に大人達が「ウッ…」とたじろいでてそこもちゃんと令和の小説だった。
舞台としては『犬神家の一族』『ひぐらしのなく頃に』などのイメージだが、推理パートはきっちり時代に即しており、なるほどなぁと思った次第だった。
不村家奇譚/彩藤アザミ
読書会課題本。「令和の怪奇小説!」というメンバーの感想に惹かれて。
「あわこさま」という存在が居る憑き物筋の一族の話。あわこさまは五体満足の者を憎み、一方で欠損を持って生まれた一族の者に凄まじい恩寵を与えるという。六章あるそれぞれが、物語はこの一族に連なるものたちの視点で進み、時代もまた章ごとに移ろう。彼らの、呪われた血ゆえの禍福に満ちた人生とそしてあわこさまの謎を追う物語だ。
・この令和の時代に”呪い”というと、ホラー映画かよと作り物のような滑稽さがあるが、六章にわたり脈々と描かれてきたそれがあるので上手く否定できないように作られている。むしろ2030年に呪いを出現させようとするとこうなるんだなと。
・「かたわ集め」の視覚的な異形さと村民の嫌悪感で始まるが、ともすれば百合青春ミステリとも読める『水葬』、同性愛に終わる『月の鼓動を知っているか』と物語の構成自体にも多様性というか、時代により社会そのものの目線が変わったことを上手く組み込んでいる。時代によって変わるものを描くことで、変わらないあわこさまの存在も際立つ。
読み心地としても、時代背景に合わせた文体や言葉選びが洗練されており、リーダビリティも高いうえに程よい怪奇を味わえる。
蝶と帝国/南木義隆
ソ連xSFx百合、という謳い文句である。
・キーラの「色を流し込む」という超能力(野生の力?)という設定が、現実感がないのにSF的な背景もなく、読み進めている際の違和感がすごかった。この設定をどう受け止めていいかよくわからなかった。ナイフ投げが上手かと思いきや料理と経営もできて、設定盛りすぎでいまいち人生の現実味がない。現実の生き難さの話なのに…
・料理が物語を支える地盤になっているのがとても良い。文化・人の違いや交流を一度に描いていて使い方が巧いなと思った。料理・食事という行為は丁寧に書くとそれだけでドラマになるよね…。
・p256「革命が…皇帝と神を殺してくれたから…革命を殺せば総取りだと思ったのだけどな…」という台詞が一番好き。この本の核だと思います。
・死者は月にいく、というエレナとの会話から、終盤で「生きて月にいく」とアメリカの月面着陸を意識させ、感情の物語と時代説明をリンクさせていて見事な締めだなと思いました。この小説は読み返せば読み返すほどアイテムの使い方が本当にうまい。国語的なスルメ、模範的な文学作品だ。
・百合というか女性同士の恋愛については「女同士だからこそ」を描いていて、だからこそ見えてくる悲喜交々が鮮やかで文学だなと思った。(2回目)
・でも個人的には、多様性の許容によって、百合というジャンルはこれからよりファンタジーになっていく(悪く言えば衰退していく)と思う。
化物園/恒川光太郎
・やはり良質なホラー。死体を隠蔽し襖を目張りした一階の部屋からクリスマスパーティーの声がするが、その恐怖を怠惰で蓋をする男の破滅的な逃避。落語の顛末のように小気味良く転がっていく狂気の果て。どこから怖いのかが分からない恐怖がそこにある。
・闇の傍に在るのが性根が腐った奴だと安心できるな。俺は善性を愛する人間だからあれは対岸の火事だ、と嗤っていられる。最初の三篇からの四章目の冒頭が最高です。ただ、氏の短編集は必ず澄み切った空のような爽やかな話が一話あり、いつもそれに救われる。
・一方でこの常川氏の得意とする(?)「ヒト側とは異なる存在の善悪」がまた上手く描かれている。七編で共通して描かれる”バケモノ”とは一体何なのか、それはただ怖がらせるためのホラー的存在ではなく、ある種のあちら側の秩序に沿った生き物なのだ。
でもそこは確かに化物園なのである…。
5A73/詠坂雄二
飛び込み自殺、首つり自殺…一見無関係に見える自殺だったが、発見された死体には「暃」の文字がある。それは本来は存在しないにも拘わらず、パソコン等では表示されるJISコード「5A73」の文字、即ち幽霊文字だった。二人の刑事たちは、事件の手掛かりを探り、「暃」の解読に腐心するが…?
序盤はかなり面白いんだけどもちょっとこの「幽霊文字」というものにテーマを絞りすぎて、特別視しすぎなとこはある。この”幽霊文字”で一本書いてやるぜッという作者の熱い思いは物凄く伝わってくるが、ミステリィとして面白いかといわれると微妙。刑事による推理も「そうなるかぁ?」という気持ちだし、真相についても「そういうことにしちゃいます?」という感じ。
ただ、探偵役たる二人の刑事がめちゃくちゃキャラ立ちしているわけでもないのに、だら~っとした必要な会話だけで心地良さがある。ちゃんと仕事のできる人同士のちょうどいいビジネスの距離の会話って気持ちいいよね~を小説でシンプルにやっているのは少ない。この作者のそういう部分はもっと味わってみたいなと思った。
この夏のこともどうせ忘れる/深沢仁
『冷たい校舎の時は止まる』『夜のピクニック』あたりが好きなら、これ以上情報を入れずにただこれを買って読んだ方がいい。
瑞々しくそして憂いと哀しみに満ちた青春小説サマー、100点である。
8月が終わる前に読むべき。え?読んでない?もう10月?私があんなにTwitterで教えてやっただろうが……
表題の「この夏のこともどうせ忘れる」にすべてが集約されており、そういう夏が4編ほど載っている。”どうせ忘れる”と言うのは、夏にいる彼・彼女らではない。そう言ってしまえる、そういう夏をいくつか抱えた(そして当然のように失った記憶だけがある)私たちなのだ。
大人にあと一歩届かない場所にいる少年少女の未成熟ゆえのプライドや傲慢さ、不安、興味が鮮やかに描かれている。そして夏が起こす”特別”が、すべて完璧なタイミングで終わる。そう、この小説が素晴らしい理由の一番は、物語が終わるタイミングが完璧なのだ。物語があるべき場所で終わること、そしてそれが夏であれば余計に難しい。なんかうまい終わりとかエンディングスタッフロールが流れちゃう物語もたくさんある。そうあるじゃないんだ、現実は。
ああ、と短い嘆息が漏れて…遠ざかった夏がここにある。
怪盗フラヌールの巡回/西尾維新
やはり西尾維新は面白いよぅ…と言いながら読んだ。化物語シリーズ後半の文のノリが合わなくなって読まなくなってたけど、ミステリィは依然ファウストであり続けており、自分はそれを求めているんだって再確認しちゃったな。
「盗んだものを返却する解党」となった怪盗フラヌール二世。二世?そう、二世だ。そこに彼がこの現代において怪盗なんぞをするに至った理由と返却の理由、そう存在理由の全てがある。舞台は海底に存在する大学、隣にはマシュマロをむさぼり続ける高慢な美少女探偵と常識人たる敏腕中年刑事、あと語尾が「ハッピーゴーラッキー」の天才と有理数とかいう名前の天才と無理数とかいう名前の天才!ワオ!西尾維新だ!
怪盗という極めて非現実的な存在を、西尾ワールドという現実の中で常識と辻褄を合わせながら存在させ、物語を回していくその手腕はさすが。連続殺人というニ段組みのミステリ要素も混ぜているが、「怪盗がどう返却するのか」という主題を損なわないように回答はすぐそこだ。(怪盗だけに!)
シリーズものというだけあって気になる展開で終わり…これから世界がどうなるのか次巻も楽しみだ。
西尾維新、戯言も化物語もそうだったけど、家族という信仰が祈りにすぎないことをあらゆる側面から(でもただの物語の背景の一部として)書いていて、でもたぶんその信仰を肯定しているところがね、とても好き。
アニメ
リコリス・リコイル
平和な日本、という建前の裏で実は反社会的な人物は極秘の政府公認殺人組織に所属する少女たちによって消されていた…という世界観でのお話。そういう世界観なのだが、話のキモはそこではなく、優秀だが優等生にならない千束ちゃんと優秀だが優等生になりきれないたきなちゃんの話である。ゆりゆり言われてましたが、感情と交流の話なので、まぁ百合です。
ここからは別に未読に向けた紹介とかじゃなく書きたい感想を書きます。
観ている間はこの世界観の粗さが目につくが、話のキモがそこではないのでまぁ流していた。むしろそういった雑味を無視することで、これほどに人間の間に距離、かわいさ、意思、感情が描けたのだともいえる。そっちにバランス取ってたらこんなにかわいくならねぇ。
…とも思っていたのだが、最終話で千束が「世界なんてどーでもいい、私は自分のまわりの人間が笑っていればいい」と語っており、このアニメそのものが千束の価値観を表象した物語なんだなと思った。世界や設定の粗などどうでもよく、一方で千束が「大切だ」と思う部分は深堀りされている。だからこそたきなが、タキの存在が描かれているのであり、このアニメは物語のバランスなんてものは無視して「何を描き、どう世界を見るのか」を徹したアニメなのだ。
あと千束さんの喋り方がめっちゃくちゃかわいい。
音楽
The band apart
私が好きそうなもの教えてって言って教えてもらったバンド。
耳障りでない、このギター(バンドが持ちがちな指でベンベンする洋楽器を全てギターと言っています)のジャカジャカの感じがかなり好き。我が名はアジカンのブルートレインの前奏が大好き太郎…。今のところピルグリムが好きですね。
検索して各自聞いてください。
次回予告
積んでるやつ
『アホウドリの迷信』
『むらさきスカートの女』
『わたしたち異者は』