2022年上半期ベスト+α(小説編)

体調と怠惰が理由で1年ほど消失していた摂取(月)記録をなんかもうオミュッとしてムイッとしてこうなりました。

小説…Best5

順不同でTOP5を選んだ。私がこの半年くらいで読んだものから選んでいるので新刊でないものも含まれています。

チベット幻想奇譚/アンソロジー
 

sernya.aa-ken.jp

Amazonリンク;チベット幻想奇譚

順不同と言ったがこれだけは堂々の1位に輝く。

伝統的な口承文学や、仏教、民間信仰を背景としつつ、いまチベットに住む人々の生活や世界観が描かれた13の物語を「まぼろしを見る」「異界/境界を超える」「現実と非現実の間」と三つのテーマ別に収録したアンソロジー

 

チベットという国の宗教や歴史が色濃く出ており、自分はあまり知見のない国…ということで現実側も含めて異界の味わいがある。鬼とか嫌な奴が「五体投地しろ!」と言ってくる日常、全然馴染みがない。
私はチベットの歴史や政治・文化背景の知識が乏しいので「実は社会風刺とも読める」のような部分に全く気付けなかったが、各編に訳者解説があり、その辺りを補完してくれているのも非常に良かった。もちろん社会風刺としてではなく単なる幻想小説の一つとして読んでも非常に面白い。

 

物語の中の人物たちの会話にチベットのことわざが入るのが良い。ことわざとか故事はその世界独特の共通理念である。「な、〇〇って言うだろ?」の〇〇がその世界では共通の教訓であるという事実が、故事というたった数行の物語の中にとてつもない歴史と文化を圧縮させている。私もオリジナル故事やことわざを作りたい。(2020年7月のこと - 千年先の我が庭を見よ)(『十二国記』の遵帝の故事って最高じゃないですか?)

ちなみに、個人的なお気に入りは、『屍鬼物語』『子猫の足跡』『一脚鬼カント』です。幻想小説としての奇妙さ、民話のワクワク、社会風刺としての冷ややかな手触りが存分に楽しめる素晴らしいアンソロジー。またこういうのを読みたい。

沈みかけの船より愛を込めて/アンソロジー

乙一を含めた3人+1人(筆名違いの同一人物)によるアンソロジー+解説(という体の短編集)。ファンが期待していたものがギッシリ詰まっている最高の一冊。

私がとても好きな氏の特徴、物語の重要ではないが必要な側面に少しとぼけた設定を持ってくる(ハイジャック犯たる学生が漬物製作が上手く、それが高値で売れたので犯行の資金としたという『落ちる飛行機の中で』や、『悠川さんは映りたい』における心霊写真合成が好きという趣味など)が存分に味わえるゾンビもの『カー・オブ・ザ・デッド』。なんでそこに都合よくソレがあるんだよ、みたいな展開も乙一さんが「こういう理由でこれはここにあります」って書くと「そっかーそうだよね」ってなっちゃうんだよなぁ。そういうのが本当に上手い。ストーリー自体の”とぼけ”ももちろんで....ゾンビ目撃という目の前の変事よりも自身の内面を重視する小説の視点に背徳的な滑稽さを味わうことができる。

一方でその視点は作品が変われば、細やかな煌めきと化する。

両親の離婚に際しどちらに付いていくのかを理知的に熟慮・決断する少女の内面を描いた表題作、パシリを通じて変化していく己を是とする爽快な短編『パン、買ってこい』などでは、離婚やパシリという目の前の変事に対して一般的な感覚ではなく、きちんと個性を持った主人公の彼/彼女なりの向き合い方が描かれる。

世界があり、そこに現実があり、その現実というものが持つ意味だとか大きさだとかっていうのは、それを観測し体験する個人のものなのだということを緻密に描くのが本当に上手いなと思う。人生は物語だ。

プロジェクト・ヘイルメアリー 上・下/アンディ・ウィアー

SFのワクワクがぎゅっとつまっている。最初から最後までぜーんぶ面白い。凄い。(SFで最初から最後まで面白いのはなかなか無いので)(途中で難しい理論が出てきてホニャーンとなってしまう)

三体もそうだったけど、やっぱり人間が人類だとか地球だとかってレベルで未来を担うのはもうファンタジィの域なんだよな。愛はファンタジィです。友情だけが世界を救います。

無貌の神/恒川光太郎

奇譚集、というのがしっくりくる一冊。

表題作は、赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような禁断の地に坐する顔のない神に挑む物語。得体の知れない恩寵、虚ろになれ果てる人々、存在する「ルール」...と不穏てんこもりのブラックファンタジー

一番好きだったのは『死神と旅する少女』

謎めいた老人に突然殺し屋にされ、その行為の意味を解せぬまま少女は淡々と任務をこなし、そして解放された数年後にその意味を知り...という物語。人生に突然ふってくる不条理で異界的な選択、世界の外側に在る時に求められるもの、世界の内側で生き続ける時に必要なものがそこにある。もう何度も言ってるけど、この3つがある物語がめちゃくちゃ好きなんだよな。舞城が良く書いているけど(『淵の王』とか『裏庭の凄い猿』とか)

えっTOP5なのに4冊しかないやん...?

そういうこともあるんよ、ワシはもう疲れた

小説…ランク外

メキシカン・ゴシック/シルヴィア モレノ=ガルシア

没落した邸宅、歓迎されない来訪、陰湿な女主人、高価な煙草に目がないシャーマン老婆、壁の中の声、続く悪夢、勝ち気な主人公…と王道てんこ盛りに南米スピリチュアルを混ぜて来て100点満点のゴシックホラー。いっそゲームで体験したいくらい。

最後に館が燃えるところで120点に至る。最後に館が燃えるホラーは良いホラーだよ。

盟約の少女騎士/陸秋槎

殺伐百合ミステリこと『雪が白いとき かつその時に限り』の陸秋槎によるファンタジーミステリ(らしい)。が、謎と謳うもののミステリ要素はほぼ無い。ただ「少女騎士」という存在がある理由や価値が歴史政治文化レベルで構築されている。ファンタジーもキャラクター達も非常に丁寧に描かれているが、逆に言えばストーリーとしてはそれだけなので本当に「少女騎士」を存分に味わうだけの小説である。

ただ百合と銘打たないところにこの小説の誠実さがあり、当然少女達のシスターフッド的な感情はそこにあったりなかったりするものの、それよりも個々人の性格や世間におけるしがらみを前提とした人間関係としてのお互いの感情がある。とにかく丁寧な小説であった。雪が白い時〜もそうだったが、女性同士がえっらい殺伐とした会話をしておるのも魅力。(たぶん魅力なんだと思う)

南の子どもが夜いくところ/恒川光太郎

ファンタジーであるようで虚実皮膜を地でいくような物語の数々。そこはかとない不幸や曖昧な真実の結末への道が、丁寧に丁寧にそうとは気付かないように描かれている。この胡乱さがクセになって恒川光太郎いっぱい読むようになりました。

オーブランの少女/深緑野分

ある日、異様な風体の老婆に庭園の女管理人が惨殺され、その妹も1ヶ月後に自ら命を絶つという痛ましい事件が起きる。殺人現場に居合わせた作家の“私”は、後日奇妙な縁から手に入れた管理人の妹の日記を繙(ひもと)くが、そこにはオーブランの恐るべき過去が綴られていた。――かつて重度の病や障害を持つ少女がオーブランの館に集められたこと。彼女達が完全に外界から隔絶されていたこと。謎めいた規則に縛られていたこと。そしてある日を境に、何者かによって次々と殺されていったこと。
なぜオーブランは少女を集めたのか。彼女達はどこに行ったのか?

仄暗い闇と幻想を匂わせる少女達と現実的なミステリィの塩梅が妙。少女にファンタジィを見ていることこそが悪い大人である証拠なのだ。

さよならに反する現象/乙一

乙一先生今季2冊も出しとるのん!?となったがどちらも方々にあった短編のかき集めなのだった。こちらは乙一名義のもののみ5編。ボリュームは少なく、単行本としては満足感が低いのが残念。しかも内1編はおそ松さんとのコラボ?という二次創作的な作品で全く楽しめない。

とはいえ最後の『悠川さんは映りたい』は、やはり生と死の境目でぼんやりと佇む物語の名手であるなぁ...と感動した。じんわりと最後に温かいものを落としていってくれるね。

スキマワラシ/恩田陸

麦わら帽子に白いワンピースの少女、もはや現実で見ることなんてほぼ無く、ただ「郷愁を感じるべき夏の不思議の象徴」としてだけ物語の中で継承存在しており、フィクションで登場人物がそういう幻覚を見ていると(うわぁミーム汚染されとる)みたいな気持ちになるようになってしまった。

少し不思議な設定とその謎解きに惹かれて快適に読み進めはしたものの、上述のような気持ちとホラーなのかミステリィなのかパンチのない炭酸のようなダラッとしたストーリィにうーん?という感じだった。

楽園とは探偵の不在なり/斜線堂有紀

特殊設定ミステリというやつ。うーん?人を二人以上殺すと天使が来て地獄に連れていかれる世界の孤島洋館で連続殺人事件が起きた!という話なんだけども、その「天使~」という特殊設定の旨みがあまり感じられず、どちらかというとキャラノベルとして楽しんだ。謎解きは魅力的じゃないけど、探偵が謎解いている最中の思い出とか人間関係とかはとても面白かった。まずもってタイトルがパロディ(こういう場合パロディって言葉で良いんだっけ?)なのがな~。めちゃくちゃかっこいいSFタイトルをちょっと変えて使うの、諸刃の剣やと思う。逆にこのタイトルでなければ、もうちょっと評価が上がった気もする。

エイリア綺譚集/高原英理

ゴシックホラーの名編者である作者らしく物語は儚く美しい。ただ会話や人とのコミュニケーションみたいなものが些か拡散しすぎというか、断続というか、小説としては味わいにくい。ただ地の文の幻想と相まって夢の中の会話のようではあるので意図的なのは分かる。

あと読んだもの(リンクなし)

逃亡テレメトリー/マーサ・ウェルズ

マーダーボットダイアリー続編。マダボ読んでないならはよ読め。今回も面白くてニッコリ。更に続編が続くと聞いてまたまたニッコリ。

リアルの私はどこにいる?/森博嗣

WWシリーズ続編。共通思考の核心に言及した回...な気もするがいまいちスッキリ理解しきれていない。読書会でも「こういう風に読ませようとしている気はする」とある程度意見は一致したが、そこから導かれる結論への「でもそんなこと真賀田四季がするだろうか?」という意見にも全員が賛同し、やっぱりイマイチわからんとなった。わからん、わかっているようでわからん。森博嗣読書会ではあなたの分析を必要としています。

Missing1~5/甲田学人

恒川光太郎にハマり始めた頃に薦められて読んだもの。というか以前からゼロ年代読書人達がみな思い出(トラウマ)を語るので読まねばと思っていたもの。13巻くらいあるのは知っていたが、もうなんか痛くて痛くて6巻以降は読めなかった(そうなるよね)面白い、ホラーとしても秀逸、オノマトペの使い方も見事なのだが、悲痛という言葉がこれほど似合うホラーもない。薦めてくれたT氏~~挫折したよ!!文字通り心が折れたよぉ....

 

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っぜえぜえはあはあ、最近こういうの全然言葉にしてないからしんどすぎる(毎回言っている)

小説編って書いたけど映画とかゲームとかノンフィクション編があるかどうかは分かりません。2割くらい書いたやつが3カ月くらい下書きにはいるネ....(ぉょょ....)