2023年1月のこと

初夢で黒崎一護になる。彼の体を持ち私の意識を持ったそれは、ヨソモノというだけで流魂街でいじめられ、それを理由に尸魂界を全く救おうとせず(つまり、救おうとしなかったのは私の意思なのだが)ルキアちゃんを泣かせていた。ごめんな、主人公に向いてなくて。

こうして無限の可能性と偶然による無数のパラレル世界の一つで尸魂界は消滅した。

たぶんだが、その呪いにより、年明けから喉、歯、腰、胃腸、腰とリズムゲームのようにあちこちを順繰り壊していた。もう一度遊べるドンではない。「体調悪いよォ」と嘆いていたら1月が終わっていた。なんなら2月中旬も終わりつつある。やってくれるぜ尸魂界…。

小説

ループ・オブ・ザ・コード/荻堂顕

読書会課題本。読んでる最中に「面白ぇ!」となり、皆の感想を聞きたくなって課題本に指定した。読書会を主催するとこのような利点があります。

 

著者自身が明言しているとおりのポスト・伊藤計劃、令和の『虐殺器官』。

国際社会から一切の過去を抹消されたイノグラビムスという国家において、子どもたちに原因不明の発作が多発する。疫病禍を経て組み替えられた国際機関、WEO(世界生存機関)に所属するアルフォンソはその調査に乗り出すが、そこには想像を超えたxxxを孕んでおり…?というストーリー。消えゆく民族のアイデンティティ、男同性カップルにおける代理母出産、家族、反出生主義、と様々な社会問題を誠実にフィクションに落とし込めながら、物語は映画さながらの緊張感とCOOLな台詞回しでテンポよく進む。重いテーマをいくつも扱っていながら、小説は非常に読みやすい。

 

とにかく主人公の、人生で煮詰まれてきた感情の描写が白眉である。

「こう感じた/考えた」という主観が人間一人一人違うのは、そこに至るまでの心の過程が異なるからだ。事象とは別に、目の前の他者との関係性による打算・過去のしがらみによる虚栄…があるからこそ、主観は独自性を保つ。そういった複雑さをきちんと描き、そのままアルフォンソという一人の人間の「一人称小説」として見事に描いている。

確かな手腕による力作である。

 

ただ、自分もそうだったが、この本の単純な感想と、自分が現実の人生経験によって獲得した信念だとか思想との境界を引くのが難しい。読書会では、みんなに踏み込みすぎずにそれらを語り合うというのは難しく、進行役としてはかなりやり辛かった。まぁ感想が聞けたのは非常に良かったが…。

『ループ・オブ・ザ・コード』―感想メモ - 千年先の我が庭を見よ

作者Twitter曰く、続編の執筆が予定されているそう。楽しみだ。

最愛の子ども/松浦理英子

とっても良かった。個別記事を書いたのでそちらを読まれたし。

群れによる語りと鮮やかな日々『最愛の子ども』 - 千年先の我が庭を見よ

インヴェンション・オブ・サウンドチャック・パラニューク

とにかく分かったことは、パラニュークという作家の咆哮は私に向けて叫ばれているものではないということだ。

細々とした生活のための雑事に埋もれ、バランスの良い自炊を行い、晴れた日には洗濯をし、薬に頼らずに精神の安定を図るという(パラニューク的に)健康な生活を過ごしている者にとって、この文体の動乱はただただ喧しいだけだ。目眩がし、不快な動悸がする。過剰なカフェインに酔うかのようである。

 

至高の悲鳴製作に傾倒する音響効果技師たるミッツィと自ら「自分は次の瞬間に炸裂しかねない爆弾だと思っている」フォスターを中心に回る物語は、それそのものが爆弾のようである。不快な緊張感、全てに向けられた敵愾心、そういったものが文字を通してずっと伝わってくる。(やめてくれ!)そう、いうなれば――音域を超えた悲鳴をずっと聞いているみたいだ。

私の生活には必要のない悲鳴だ。

小説以外

ひどい民話を語る会/京極夏彦,多田克己,他

ホントまぁ〜下ネタばっかりだが非常に面白かった。

荒唐無稽・下品さで学問や文芸からは弾かれ、零れ落ちた口承文芸を、「ひどい民話」として妖怪愛好家の面々でさぁ語り合おうじゃないか、という談話集。

民話というのは、ゲームもTVもない時代のエンタメの一つとして「面白いお話して!」とせがまれて出来上がるものであり、とにかくウケ狙い、ウケればOKという方向へ進化していく。そしてめっちゃウケた話が生き残っていく。

これほど常軌を逸した内容になってくると、僕は整合性をもって理解することができなかったです(京極夏彦

それゆえに、あの京極氏がこう述べるほど、奇天烈な民話の数々が繰り広げられる。ウオォオ四天王による奇天烈民話カードバトルだ!キェエイッ!

お風呂を沢庵で搔き回す民話を、取り憑かれたようにに三日間くらい調べていたんです。あまりに多いので途中からもういいやってなっちゃいました。(黒史郎

ウンコを食わされただけのババア、テケテケワンワン走ってきて裏返ってまた去っていく犬(裏返って?)、豆粉餅を布団の間に置いて寝れば屁で豆粉が舞う話…。

子どもの寝かしつけにオリジナル桃太郎の話をしたことがある人は、かなり楽しめるだろう。ビクトリーソードを持ち、カビパラを従え、メロンパンを腰につけた桃太郎。あなたのそれも、脈々となされてきた民話の一つの形なのだ。

みんなが手話で話した島/ノーラエレン・グロース

みんなが手話で話した島の話である。

アメリカ・ボストンの南にある島では、先天性聴覚障害を持って生まれる人が多く、その比率も高かった。そのような島では、聴覚の異/正常を問わず、発話と手話が「当たり前」として共生社会が作られていた…というフィールドワークのレポートである。

だから、どのように情報収集したかという聞き取りや歴史・系譜の解明などの「調査結果」が8割であり、内容としては、帯文にある

「あの人たちにハンディキャップなんてなかったですよ。ただ聾(ろう)というだけでした」

という一言がこの本のすべてである。なので、この一文を読んで、本を3割くらい読んだところで、これ以上この本が言うことないな…と消化試合みたいな気持ちになってしまった。

「障害」「言語」そして「共生社会」とは何かについて深く考えさせる、文化人類学者によるフィールドワークの金字塔。

というあらすじ紹介にあるとおり、”考えさせられる”ための根拠に基づく整理された膨大な情報がある本。

料理

このレシピ本良かったな〜という情報、あんまり友人間でも共有されないけども必要じゃない?

海上保安庁のおいしい船飯

★★☆☆☆

海上保安庁の船でのレシピ本。かの有名なカレーに留まらず、各地のご当地グルメレシピもある。ついでに「船が揺れて皆のご飯が危機一髪!」みたいな船キッチンあるあるも載っていて見知らぬ世界の食事が垣間見える。鶏飯だけ作った。

ずるいおやつ

★★★★☆

手軽に作れるお菓子作りにはまっているので、これを見てマフィンとかレモンのファーブルトンケーキなどを焼いた。ホットケーキミックスを中心として、材料数も手順も少ないところが良い。作ろうかな、という気持ちから行動までの障壁がだいぶ低い。そういうの大事だよ。味はまぁ…自分用ならこれでエエか〜といった感じ。

映画

TENET
TENET テネット(字幕版)

TENET テネット(字幕版)

  • ジョン・デイビッド・ワシントン
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ぜーんぜん分からんかった。

SF的要素たる「因果が逆転する(弾が到着したあとに、銃を撃つという現象が発生する)」というのは発想としては面白いものの、映像では物凄く分かりにくい。映像的にはただの逆回しなので地味すぎる。冒頭のシーンで、それっぽい匂わせに主人公が疑問を持つシーンがあるんだけど、何に疑問を持っているのか全然分からなかった。アニメーションでやればもうちょっと違ったのでは…。

あと私は登場人物の見分けが全然出来ず、誰なのかモブなのかどうかも分からなくなるという弱点がある。今回も、主人公はこの二人!とパッケージの二人とあと悪役、ヒロインの4人だけ頑張って把握していたら、エンディングで「…じゃあな」ってかっこよく去る男が3人になっててコイツ~!?誰~~!?となった。となった、じゃない。絶望的に映画鑑賞に向いてない。

全体としてストーリィは分からんでもないけど、映像が何やってんだか分からんし、スリルも楽しくない。さらに最初から最後まで、話の流れがガタガタしてて咀嚼しにくい映画だった。

次回予告

・小川哲『君のパズル』、読書会課題本。

・カルタレスク『ノルタルジア』積んどる。

・好きな菓子パンインフォメーションの記事でも書くか…春のパン祭りもくることだし

・ペルソナ5ロイヤルが終わりそう