2022年上半期ベスト+α(小説編)

体調と怠惰が理由で1年ほど消失していた摂取(月)記録をなんかもうオミュッとしてムイッとしてこうなりました。

小説…Best5

順不同でTOP5を選んだ。私がこの半年くらいで読んだものから選んでいるので新刊でないものも含まれています。

チベット幻想奇譚/アンソロジー
 

sernya.aa-ken.jp

Amazonリンク;チベット幻想奇譚

順不同と言ったがこれだけは堂々の1位に輝く。

伝統的な口承文学や、仏教、民間信仰を背景としつつ、いまチベットに住む人々の生活や世界観が描かれた13の物語を「まぼろしを見る」「異界/境界を超える」「現実と非現実の間」と三つのテーマ別に収録したアンソロジー

 

チベットという国の宗教や歴史が色濃く出ており、自分はあまり知見のない国…ということで現実側も含めて異界の味わいがある。鬼とか嫌な奴が「五体投地しろ!」と言ってくる日常、全然馴染みがない。
私はチベットの歴史や政治・文化背景の知識が乏しいので「実は社会風刺とも読める」のような部分に全く気付けなかったが、各編に訳者解説があり、その辺りを補完してくれているのも非常に良かった。もちろん社会風刺としてではなく単なる幻想小説の一つとして読んでも非常に面白い。

 

物語の中の人物たちの会話にチベットのことわざが入るのが良い。ことわざとか故事はその世界独特の共通理念である。「な、〇〇って言うだろ?」の〇〇がその世界では共通の教訓であるという事実が、故事というたった数行の物語の中にとてつもない歴史と文化を圧縮させている。私もオリジナル故事やことわざを作りたい。(2020年7月のこと - 千年先の我が庭を見よ)(『十二国記』の遵帝の故事って最高じゃないですか?)

ちなみに、個人的なお気に入りは、『屍鬼物語』『子猫の足跡』『一脚鬼カント』です。幻想小説としての奇妙さ、民話のワクワク、社会風刺としての冷ややかな手触りが存分に楽しめる素晴らしいアンソロジー。またこういうのを読みたい。

沈みかけの船より愛を込めて/アンソロジー

乙一を含めた3人+1人(筆名違いの同一人物)によるアンソロジー+解説(という体の短編集)。ファンが期待していたものがギッシリ詰まっている最高の一冊。

私がとても好きな氏の特徴、物語の重要ではないが必要な側面に少しとぼけた設定を持ってくる(ハイジャック犯たる学生が漬物製作が上手く、それが高値で売れたので犯行の資金としたという『落ちる飛行機の中で』や、『悠川さんは映りたい』における心霊写真合成が好きという趣味など)が存分に味わえるゾンビもの『カー・オブ・ザ・デッド』。なんでそこに都合よくソレがあるんだよ、みたいな展開も乙一さんが「こういう理由でこれはここにあります」って書くと「そっかーそうだよね」ってなっちゃうんだよなぁ。そういうのが本当に上手い。ストーリー自体の”とぼけ”ももちろんで....ゾンビ目撃という目の前の変事よりも自身の内面を重視する小説の視点に背徳的な滑稽さを味わうことができる。

一方でその視点は作品が変われば、細やかな煌めきと化する。

両親の離婚に際しどちらに付いていくのかを理知的に熟慮・決断する少女の内面を描いた表題作、パシリを通じて変化していく己を是とする爽快な短編『パン、買ってこい』などでは、離婚やパシリという目の前の変事に対して一般的な感覚ではなく、きちんと個性を持った主人公の彼/彼女なりの向き合い方が描かれる。

世界があり、そこに現実があり、その現実というものが持つ意味だとか大きさだとかっていうのは、それを観測し体験する個人のものなのだということを緻密に描くのが本当に上手いなと思う。人生は物語だ。

プロジェクト・ヘイルメアリー 上・下/アンディ・ウィアー

SFのワクワクがぎゅっとつまっている。最初から最後までぜーんぶ面白い。凄い。(SFで最初から最後まで面白いのはなかなか無いので)(途中で難しい理論が出てきてホニャーンとなってしまう)

三体もそうだったけど、やっぱり人間が人類だとか地球だとかってレベルで未来を担うのはもうファンタジィの域なんだよな。愛はファンタジィです。友情だけが世界を救います。

無貌の神/恒川光太郎

奇譚集、というのがしっくりくる一冊。

表題作は、赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような禁断の地に坐する顔のない神に挑む物語。得体の知れない恩寵、虚ろになれ果てる人々、存在する「ルール」...と不穏てんこもりのブラックファンタジー

一番好きだったのは『死神と旅する少女』

謎めいた老人に突然殺し屋にされ、その行為の意味を解せぬまま少女は淡々と任務をこなし、そして解放された数年後にその意味を知り...という物語。人生に突然ふってくる不条理で異界的な選択、世界の外側に在る時に求められるもの、世界の内側で生き続ける時に必要なものがそこにある。もう何度も言ってるけど、この3つがある物語がめちゃくちゃ好きなんだよな。舞城が良く書いているけど(『淵の王』とか『裏庭の凄い猿』とか)

えっTOP5なのに4冊しかないやん...?

そういうこともあるんよ、ワシはもう疲れた

小説…ランク外

メキシカン・ゴシック/シルヴィア モレノ=ガルシア

没落した邸宅、歓迎されない来訪、陰湿な女主人、高価な煙草に目がないシャーマン老婆、壁の中の声、続く悪夢、勝ち気な主人公…と王道てんこ盛りに南米スピリチュアルを混ぜて来て100点満点のゴシックホラー。いっそゲームで体験したいくらい。

最後に館が燃えるところで120点に至る。最後に館が燃えるホラーは良いホラーだよ。

盟約の少女騎士/陸秋槎

殺伐百合ミステリこと『雪が白いとき かつその時に限り』の陸秋槎によるファンタジーミステリ(らしい)。が、謎と謳うもののミステリ要素はほぼ無い。ただ「少女騎士」という存在がある理由や価値が歴史政治文化レベルで構築されている。ファンタジーもキャラクター達も非常に丁寧に描かれているが、逆に言えばストーリーとしてはそれだけなので本当に「少女騎士」を存分に味わうだけの小説である。

ただ百合と銘打たないところにこの小説の誠実さがあり、当然少女達のシスターフッド的な感情はそこにあったりなかったりするものの、それよりも個々人の性格や世間におけるしがらみを前提とした人間関係としてのお互いの感情がある。とにかく丁寧な小説であった。雪が白い時〜もそうだったが、女性同士がえっらい殺伐とした会話をしておるのも魅力。(たぶん魅力なんだと思う)

南の子どもが夜いくところ/恒川光太郎

ファンタジーであるようで虚実皮膜を地でいくような物語の数々。そこはかとない不幸や曖昧な真実の結末への道が、丁寧に丁寧にそうとは気付かないように描かれている。この胡乱さがクセになって恒川光太郎いっぱい読むようになりました。

オーブランの少女/深緑野分

ある日、異様な風体の老婆に庭園の女管理人が惨殺され、その妹も1ヶ月後に自ら命を絶つという痛ましい事件が起きる。殺人現場に居合わせた作家の“私”は、後日奇妙な縁から手に入れた管理人の妹の日記を繙(ひもと)くが、そこにはオーブランの恐るべき過去が綴られていた。――かつて重度の病や障害を持つ少女がオーブランの館に集められたこと。彼女達が完全に外界から隔絶されていたこと。謎めいた規則に縛られていたこと。そしてある日を境に、何者かによって次々と殺されていったこと。
なぜオーブランは少女を集めたのか。彼女達はどこに行ったのか?

仄暗い闇と幻想を匂わせる少女達と現実的なミステリィの塩梅が妙。少女にファンタジィを見ていることこそが悪い大人である証拠なのだ。

さよならに反する現象/乙一

乙一先生今季2冊も出しとるのん!?となったがどちらも方々にあった短編のかき集めなのだった。こちらは乙一名義のもののみ5編。ボリュームは少なく、単行本としては満足感が低いのが残念。しかも内1編はおそ松さんとのコラボ?という二次創作的な作品で全く楽しめない。

とはいえ最後の『悠川さんは映りたい』は、やはり生と死の境目でぼんやりと佇む物語の名手であるなぁ...と感動した。じんわりと最後に温かいものを落としていってくれるね。

スキマワラシ/恩田陸

麦わら帽子に白いワンピースの少女、もはや現実で見ることなんてほぼ無く、ただ「郷愁を感じるべき夏の不思議の象徴」としてだけ物語の中で継承存在しており、フィクションで登場人物がそういう幻覚を見ていると(うわぁミーム汚染されとる)みたいな気持ちになるようになってしまった。

少し不思議な設定とその謎解きに惹かれて快適に読み進めはしたものの、上述のような気持ちとホラーなのかミステリィなのかパンチのない炭酸のようなダラッとしたストーリィにうーん?という感じだった。

楽園とは探偵の不在なり/斜線堂有紀

特殊設定ミステリというやつ。うーん?人を二人以上殺すと天使が来て地獄に連れていかれる世界の孤島洋館で連続殺人事件が起きた!という話なんだけども、その「天使~」という特殊設定の旨みがあまり感じられず、どちらかというとキャラノベルとして楽しんだ。謎解きは魅力的じゃないけど、探偵が謎解いている最中の思い出とか人間関係とかはとても面白かった。まずもってタイトルがパロディ(こういう場合パロディって言葉で良いんだっけ?)なのがな~。めちゃくちゃかっこいいSFタイトルをちょっと変えて使うの、諸刃の剣やと思う。逆にこのタイトルでなければ、もうちょっと評価が上がった気もする。

エイリア綺譚集/高原英理

ゴシックホラーの名編者である作者らしく物語は儚く美しい。ただ会話や人とのコミュニケーションみたいなものが些か拡散しすぎというか、断続というか、小説としては味わいにくい。ただ地の文の幻想と相まって夢の中の会話のようではあるので意図的なのは分かる。

あと読んだもの(リンクなし)

逃亡テレメトリー/マーサ・ウェルズ

マーダーボットダイアリー続編。マダボ読んでないならはよ読め。今回も面白くてニッコリ。更に続編が続くと聞いてまたまたニッコリ。

リアルの私はどこにいる?/森博嗣

WWシリーズ続編。共通思考の核心に言及した回...な気もするがいまいちスッキリ理解しきれていない。読書会でも「こういう風に読ませようとしている気はする」とある程度意見は一致したが、そこから導かれる結論への「でもそんなこと真賀田四季がするだろうか?」という意見にも全員が賛同し、やっぱりイマイチわからんとなった。わからん、わかっているようでわからん。森博嗣読書会ではあなたの分析を必要としています。

Missing1~5/甲田学人

恒川光太郎にハマり始めた頃に薦められて読んだもの。というか以前からゼロ年代読書人達がみな思い出(トラウマ)を語るので読まねばと思っていたもの。13巻くらいあるのは知っていたが、もうなんか痛くて痛くて6巻以降は読めなかった(そうなるよね)面白い、ホラーとしても秀逸、オノマトペの使い方も見事なのだが、悲痛という言葉がこれほど似合うホラーもない。薦めてくれたT氏~~挫折したよ!!文字通り心が折れたよぉ....

 

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っぜえぜえはあはあ、最近こういうの全然言葉にしてないからしんどすぎる(毎回言っている)

小説編って書いたけど映画とかゲームとかノンフィクション編があるかどうかは分かりません。2割くらい書いたやつが3カ月くらい下書きにはいるネ....(ぉょょ....)

貨幣経済アレルギーとゼンゼンゼンジャナイ

3年かかってやっと積立NISAを登録した。

この3年の内訳は、重い腰を上げるのに2年11ヶ月、調べてやる気を出すのに3週間、諸手続きに1週間である。まぁ概ねメンドクセェとの戦いであった。

かの戦いではこの本にお世話になった。マジで基本情報しか載っていない39ページの本(prime readingで読める)だが、やる気を出すのに一番効いた本だ。39ページというコーヒーブレイクで読み切れるような量が初動に相性が良い。

ここまで読んでくださったあなたには、「自分もつみたてNISAを始めてみたい!」という気持ちが生まれたでしょうか? もしそうであれば、間を置かずに証券口座開設の手続きに入りましょう。

結局、こういうのは準備をする/実際に事務作業に取り掛かる、みたいなところのハードル(お前が積み上げたメンドクセェの山)がめちゃくちゃ高いのであり、それを越えさえしてしまえばあとは勢いで何とかなる。(ならない場合もある)まぁ今回は何とかなった。ヨカッタネ…。

 

自分はマルチタスクも得意だし、事務作業も苦では無いし、「やんなきゃいけない手続き」みたいなものをもきちんと計画立てて行うタイプだが、金勘定だけがめちゃくちゃ苦手である。家計簿がつけられない。経済もダメ。円安と円高を考える時に、一回頭の中の日本とアメリカの間でハンバーガーの売買取引をしないとどっちなのかが分からない。数学が苦手なわけではない。むしろ得意な方だった。ただ「お金の問題である」と考えるだけで頭の中がこんがらがって思考が乱れてしまうのだ。可哀想に……。

昔、「STAMPS」という希少切手オークションを楽しむボードゲームで遊んだことがあった。

当然のように全く楽しめなかった。「お金を利用した駆け引き」にワクワクするゲーム性を全く感じることができないのだ。多数の思惑が飛び交うテーブルで緊張し、ただただ失われる可能性のある財産に怯えながら、「もう俺はオシメェだ」みたいな気分でゲームに臨むことになる。地下賭博場に連れてこられた多重債務者か?何が私をそこまで乱すのかは分からない。トラウマになるほどの貧困があったわけでもない。でもお金について考える時、思考は鈍り無意味な焦燥に決断力は落ちる。

貨幣経済にアレルギーがあるのか?

 

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シルバニアファミリーで上手く遊ぶ事が出来ない。

以前このような記事を書いたところ、Twitterのフォロワーより「unpacking*1というゲームを思い出した」と教えて貰った。開梱?そう、開梱ゲーというものがあるのです。あるんだって。

どうやら引越し後の段ボールを開梱し、様々な物を部屋の中の“所定の”位置に置いていくゲームらしい。どこに何を置くべきか…という架空の住人の性格に基づく「正解」を憶測しながら配置する。へぇ…なるほどね…。

この禅の要素を含むパズルゲームで、人生の様々な段階にいる人たちの荷物を荷ほどきし、彼らの物語に触れましょう。

禅!?そうか、あの作業は禅だったのか……。物を配置し、そこに架空の人生を演出する。言われてみれば確かに抽象的には枯山水とほぼほぼ同じである。

シルバニアファミリーは禅だったのだ。“遊び”ではなく、”整える“作業としてのシルバニアファミリー。上手く遊ぶ必要などなかったのだ!

 

と、いうことでデジタル版シルバニアファミリーを期待してSwitchで「あつまれどうぶつの森」を始めた。

無人島移住パッケージなるもので無人島へ行く。ワーイ!どんな家に、島にしようかワクワクしちゃうな…。

初日はキャンプファイヤーの前で桃ジュースで乾杯して終わった。のどかだ。日暮れまでに拠点を確保する必要のない無人島生活って初めてだな…。

思えば、今まで無人島に到着したとなれば先ず先に雑草で縄を結い、そこから石と木の枝で斧を作り、現住生物に怯えながら「どれだけ早く安全な生活が出来るか」を目的に生きてきた気がする。でもここではそんな心配も焦燥も必要ないんだ。ゾンビに怯えながら生のコーンを齧る夜を過ごさなくても良いし*2、崖からの落下ダメージで死ぬこともないし*3 、絶え間ない空腹を氷と肉でミートボールの錬成で乗り切る*4なんてことも無いんだ!凄い、文明って凄い!文明ってあったかい!

 

しかし喜んでいたのも束の間、翌日から私はこの「文明」に殺されることになる。

 

移住費用として「たぬきマイル」なる楽天ポイントのような擬似銭で負債が残され、あれよあれよと住宅ローンが組まれる。たぬきマイルは日々の行動タスクで貯まる。ヒイィイイイイィィ…ポイ活!

「島民代表」という名のもとに雑用が押し付けられ、とにかく金が必要になる。インフラ整備するんも、大丈夫だも住民の皆で寄付をしあって建設するなも、とか言うておるが実際に住民(NPC)が出す金は雀の涙程度で、結局は大半をプレイヤーが出すことになる。って税やないかい!!これは税!!

結局集めた素材で作った製品を売って、得た金で家具を買う/整備工事代に充てる生活だ。内職か?

数多のサンドボックスゲームの基本たる「素材を集めてクラフトして家を飾る」の過程に貨幣経済が組み込まれるだけでこんなに虚しくなるなんて思ってなかった。マネーマネーマネー…素材集めの作業も金のためだと考えるだけで全てが「「「労働」」」になってしまう。

こんなの…こんなのもう現実世界で充分やってますですわよ!!!

 

あんなに安心を与えてくれた文明が、貨幣経済と擬似行政となり私に牙を剥いている。

否、そうではない。安心はタダでは手に入らないもので、これが文明の当然あるべき姿なのだ。安全にはコストがかかる。(それにしたって他のカワエエアニマル住人達はフリーライダーすぎやしねぇかな)それを社会規模で実現しようとしたのが、人類が編み出した行政やら貨幣やらというシステムなのだ。

ここには正しく文明がある……。

 

あるのはいいけど、それはこっち(現実)にもあるんで、目下ゲームには少し食傷気味である。とりあえずクリアという概念があるらしいので、それまでは頑張ってみる。あと友人と「時間が合ったらお前の島に行くでな」と言って時間が合い続けてないので、それまでは整えてみようと思う。俺の島を見に来てみろよ、という方が居たらお声がけ下さい。

あとこれ全然禅じゃねぇな……全然禅じゃないよ!!!

 

 

 

*1:文脈とは関係ないが、このゲームを紹介する記事としてこちらも良い記事であった。バイセクシュアルの表象とモノの方を向くこと お引越しゲーム『Unpacking』をやってみた - wezzy|ウェジー

*2:7Days to die。ゾンビがいる打ち捨てられたエリアで建築サバイバルをするゲーム。7日日毎にゾンビが大量に押し寄せるのが特徴。火や音に反応してゾンビが来るという設定があり、臆病な私は温かい食事を摂ることすらできず、隣家の倉庫から飛び出してきた狂った野犬によって死んだ。

*3:Ylands。裸で無人島に降り立ち、クラフトサバイバルと探検を楽しむゲーム。自動化こそないもののマインクラフトのローポリ版のような感じで非常に楽しい。外海へ進出すると別の島があるというのはまさに大航海で、新島見つけた時の喜びはなかなか味わえない。サメがかわいいゲームとしても有名。サンドボックス系では一番楽しかった。是非ともSwitchに来て欲しい。

*4:Don't starve together。狂気と空腹に苛まれながら、どれだけ長く生活できるかを頑張るサバイバルゲームSAN値(sanity値)が下がると「何かおっきい怪物がくるよ!」「それこっちには見えてないよ」という本物の狂気体験ができる。

ここ数年で買って良かったもの

こういうのやったことなかったけど「Twitterでフォローしていたり、ブログを購読している人のこういう記事」はかなり好きだ。じゃあ自分もやりなさいよ。ハイ…。

オススメ記事とかランキングではなく、「こういうものが好き」みたいなのが見えるくらいの他人が発信している感想、インターネットの世界で一番尊い情報だと思う。

トースター

トースターに数万円は高価すぎる。

でも毎日のパンが美味いことにはそれだけの価値がある。あったんですよね…。本当にトーストがパリッとなるし、何よりパン屋のパンが美味くなる。私はパンが大好きなのでこれは本当に買って良かった。あとパンが4枚同時に焼けるというのも地味に便利だ。

なお、グリルチキンとか野菜とかも焼けるし美味しく出来るが、そんなめちゃくちゃ感動するほど美味いかというと「マァそりゃこんなもんだよね」の気持ち。単純に油が飛ぶからヤダよか肉に火が通ったのか不安とかそういう面倒さと美味さのバランスの問題なだけで、グリル調理における性能が悪いわけではない。

ちなみに餅も上手く焼ける。

保存容器

ずっとプラスチック製のタッパーを使っていたのだが、

・野菜の電子レンジ下茹での時に加熱に耐えられない

・においが移る

・酢の物の保存に適さない(私は南蛮漬けとピクルスが好き)

・食洗機ダメっぽい

ということで思い切って全てガラス製に変えた。見た目がオシャレになるので作り置きもちょっと楽しくなった。何が入ってるか分かるのも良い。大きいヤツはグラタンも作れるし、小さいものはゼリーも作れる。タッパーも100均で揃うと言えば揃うが、結局長いこと使うものはそれなりに良いモノを買ってしまった方がQOLは上がる。

因みにフタだけは食洗機不可だが、そこは仕方ないか〜という感じ。

スライサー

カッコいい感じの千切りしたいな〜と思ってポイント交換で貰ったもの。千切りにこのお値段…という気持ちはあったが、長く使う道具は良いものを買うとやはり違う、というのが分かってきたのでこれにした。

非常に切れ味が良いので、無理な力なくスルスル切れる。お店みたいな細い千切りが出来て楽しい。南蛮漬けの人参とか玉ねぎもイイ感じになる。(私は南蛮漬けが好き)

食洗機不可なので手洗いが必要だが、野菜程度なら水でジャジャーっとやればほぼ落ちるのでそんなに面倒でもない。

難点はスライス時に割と飛び散るところくらい。

カフェインレスコーヒー

色々試したがこれが一番値段と味のバランスが良いカフェインレスコーヒーだった。緑茶にしろコーヒーにしろ、カフェイン抜きドリンクはだいたいパンチのない薄ゥい味になりがちだが、このコーヒーは割と「コーヒー」を保っているなと思う。スタバも良いと思うけどコスパが悪い。

KALDIでも売っている。

サンダル

・車が運転できる(バックルが付いている)

・水陸両用

・爪先にガードがあるもの(足でストッパーなどを操作をすることがあるので)

ということでめちゃくちゃ探してkeenのサンダルに辿り着いた。長時間歩いても疲れない。小川くらいならそのままバシャバシャ入って行ける。スポーツ系サンダルはゴツすぎて服に合わせにくいものも多いが、これは割となんでも合うので重宝している。

本棚

IKEAの本棚がたわんじゃってもう…になったので本棚を新調。

・棚板がたわまない

・可動棚(文庫もA4も入るようにしたいので)

・耐震として突っ張り出来るとベター

という条件で色々探してエースラックのオーダー本棚のタフ板タイプにした。組み立て式だが手順は難しくない。ただ耐震性能上げるためにもボンドで補強してねということで(ボンドが付属品として付いてくる)、組み立てだけど引っ越しの時には再度バラして…という使用は想定されていない。

オプションで後からでも色々(突っ張りだったり扉だったり)カスタム出来るのも良い。

見た目や質感もしっかりしてて、「ちゃんとした本棚」という感じ。タフ板もしっかり厚みがあって安心感はある。長期使用でどこまで劣化してしまうのかは未だ不明だが。

可動棚は均等配置を前提にされているっぽいので、A4用に板を配置してしまうと、どこかがかなり窮屈な高さの棚になってしまう。とは言え、高さ180センチの本棚の上いっぱいまで本を詰め込むと書籍の落下で死にかねないので、上の方はぬいぐるみを並べている。ぬいぐるみにそんな高さは必要ないので自分の使い方としては無駄はそんなに無い。まぁじゃあ180センチも要らんのではって話にはなりますが…(天井に突っ張ることも考えると中途半端な高さが一番危ないというのはあるのだが)

色々買い替えたり探したりした結果の学び

・長く頻繁に使う道具は良いモノを買った方が良い

・数年後のライフスタイルが不明なら全部ニトリかカインズにしておいたらええ

・買う前にあらゆる想定をして決めたモノは大体外れない(あらゆる想定をしている自分が賢いので)

・情報は待ってるだけでは来ない、お前も発信しろ

 

 

 

 

ブンガク、ブンガクね

『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短編29』を読んだ。日本文学における良質な短編をテーマ毎にいくつか編み英訳して出版されたものの、原著(というか日本語の)編み直し版である。

【目次】

・序文
切腹からメルトダウンまで 村上春樹

・日本と西洋
監獄署の裏 永井荷風
忠実なる戦士
興津弥五右衛門の遺書 森鷗外
憂国 三島由紀夫

・男と女
津島佑子
箱の中 河野多惠子
残りの花 中上健次
ハチハニー 吉本ばなな
山姥の微笑 大庭みな子
二世の縁 拾遺 円地文子

・自然と記憶
阿部昭
『物理の館物語』 小川洋子
忘れえぬ人々 国木田独歩
1963/1982のイパネマ娘 村上春樹
ケンブリッジ・サーカス 柴田元幸

・近代的生活、その他のナンセンス
屋根裏の法学士 宇野浩二
工場のある街 別役実
愛の夢とか 川上未映子
肩の上の秘書 星新一

・恐怖
砂糖で満ちてゆく 澤西祐典
件 内田百閒

災厄 天災及び人災
関東大震災、一九二三
地震金将芥川龍之介
・原爆、一九四五
青来有一
・戦後の日本
ピンク 星野智幸
阪神大震災、一九九五
UFOが釧路に降りる 村上春樹
東日本大震災、二〇一一
日和山 佐伯一麦
マーガレットは植える 松田青子
今まで通り 佐藤友哉

どの短編も、日本という国の時代、社会、環境に根付いた人間の感情や感性が素晴らしい筆致で描かれている。「素晴らしい」と褒めたが、人間という肉に内包された醜悪さだったり、どことなく無自覚に社会に育まれていく母親の虚無だったりと、そこで描かれる感情手触りは非常に悪い。読みおわって不快になる。よくぞ人間の社会的動物としての獣臭さを切り取ったな。「感情の手触りが悪い」はそこまで描ける作者の手腕としては卓越したものであると思うので、「ブンガク的には素晴らしいのは分かるが全然面白くない」という感想に落ち着く。

 

特に『焔』『今まで通り』などは一体何の話がしたいのかさっぱりわからなかった。バッドエンドとも違う、後味の悪い読み心地が残るばかりである。これがブンガクなのか?人間の同定できない無茶苦茶な感情を巧く炙り出したのがブンガクなのか?内容はどうにでも解釈できるとは思うが、これが、これが“名”短編なのか?と評価軸がよく分からなかった。

 

 

 

スリーフレーズ、フリーフレーム

今まで読んできた本の中でもずっと忘れられないフレーズというのが3つある。思考の空隙に泡のように浮き上がってきて、そしていつもその言葉の意味を考え続けてきた。

 

「混沌とした話をしているね。もっと抽象的に言いなさい」

「ようするに、つながっているのに、つながらない」

朽ちる散る落ちる森博嗣

高校生の頃に読んで、この言葉の意味が分からなかったけども、それ以降ずっと何かを理解する時にはこのフレーズを思い出していた。組織で仕事をするようになって、専門外に触れたり、上なり下なりに説明やら教育やらをして、電子的にも運営的にも「システム」というものの根幹に関わる仕事が増えてきた時に、やっと「あ、これか」と理解できた。抽象的思考。あらゆる物事について、抽象的に思考できるかどうかというのは理解速度にかなり違いが出ると思う。

昔は「抽象の方が理解しやすいとはどういうことだろう」と疑問だったが、慣れてくると、というか理解(読解に近い)の回路ができ始めると基本的に抽象的に捉えた方が分かりやすいという意味が身に染みてくる。言葉で意味を限定しすぎない方が理解しやすい事象やら思想は多い。これが、このフレーズの意味が分かるようになって良かったなと本当に嬉しく思う。

ここ数年ではこの脳内回路には「プログラミング的思考」という名前がついて、汎化という一手に属するものとして多分そのノウハウみたいなものが形を取り始めたなと思う。素晴らしいことだ。

「愛は祈りだ、僕は祈る」

好き好き大好き超愛してる舞城王太郎

言葉通りで言葉通りに納得することは容易なんだけど、実感として得たことがあって「これか」と身震いをした。感覚を言語化しようとしたら、記憶の中に既にそのページがあった、みたいな感じ。

数多にある人生の儀式がそうであるように、そしてそれしかなかったように、祈りもまた愛である。

このフレーズを理解できた時に、生きてきた甲斐があったな、と思った。そしてそういう物語だ。

「そうかしら。でも、無意味が無意味でなくなる瞬間、その時にこそあたしたちは生きるのじゃなって。あたしは零がきらいよ、もしも幸福がプラスで、不幸がマイナスだとしても、あたしは絶対値の大きい方を選ぶわ」

エピクロスの肋骨』澁澤龍彦

これだけが未だに実感を伴う理解を得るに至っていない。

何となく言っている意味は分かるし、解釈することは可能なのだが、そういうことではない。人生で、この言葉を発するに至る境地に未だ達していないなと思う。不幸である場合に、その絶対値が大きい方を選ぶという精神状態がよく分からない。でも何となくこれも生きる上での根幹にある思想の一つだとは思う。それが自分の生き方に馴染むものかどうかは別として。

 



 

 

ダメダメのちょむちょむになっていた

2021年の後半はフィジカルがダメダメになっており、殆ど何も出来なかった。殆どには日常生活も含まれていて、本を読んだりアニメを見たりはおろか、何なら食事もろくに出来ず仕事すら出来て無かった。元は完全にフィジカルだけのダメージだったのだが、疲労と空腹のデバフは想像以上にメンタルに影響を与える。流石に後半はメンタルも若干やられていた。思考がポジティブであろうが計画性の鬼であろうが、肉体ダメージの前に精神は無力。ということで以下はダメダメになっていた時に分かったことである。

情報整理が出来ない

本が読めない、というかストーリーがしっかりした漫画でさえ読めなくなった。でもフィジカルの苦痛を誤魔化すために何か気を紛らわしていたいので、ひたすら料理漫画を読んでいた。情報整理(読解)って脳の余力で回しているんだなぁ。加えて生活の情報整理も出来なかった。病院の予定だとか「明後日は不燃ゴミだから」みたいな行動計画がまるで立てられない。自分は割とマルチタスクが得意で、脳内にやる事だとか考える事の順序がブワァワ〜っと広がっていて、ちまちま整理しながら生活しているタイプなのだが、それがもうぜーんぶポンチャラリンになっておった。日々何も考えられない。計画性は死んでいた。本当に息をしていなかった。生きるのに精一杯というレベルでは、情報整理は出来ない。怠惰とかじゃなく、出来ない。しんどかった。

飯も作れない

とにかく計画性が死んでいるので日々の飯を考え、買い物をする余裕もない。といいことで外注を使う。

  • 食材宅配(必要分の食材が届いて自分で調理するやつ)

ヨシケイの安いコースを2種類くらい試したが吃驚するくらい不味くてやめた。

レシピが不味い。調味料はご家庭で用意して下さい、というスタイルなのでスタンダードな調味料しか登場しないのだ。めんつゆとか焼肉のタレを使え、柚子胡椒を使え。安いコース、というのもあって食材も、もやしやニラ…といった節約レシピみたいな食材ばかりだ。お試しだったのだが、あまりに不味くて後半は与えられた食材でうまいレシピを自分で考えるというスタイルになってしまい、本末転倒だった。それはネットスーパーでええやん。

  • 出来合いの弁当

スーパーの弁当とかほっともっと弁当とか。あとはコロナ禍だったためカフェや居酒屋のテイクアウト弁当とか。前者はどうしても揚げ物が多くなってしまい、疲れる。だいたいラインナップも同じだし。後者は前日要予約とかで思い立ってすぐに買えるところは少なく、計画性が死んでいる状態では難易度が高かった。美味しいんだけど。あと外食とそう変わらないので、一食当たりが高価くなりすぎる。

  • 宅配弁当

ということで、生協の宅配弁当にした。考えるのもしんどいので、他社との比較もしていない。無難だろうということで選んだ。割と美味しい。冷凍ではなく冷蔵でくるとこも良いし、品数も多くバランスも良い。自分では作らないような小鉢メニューが多くて楽しかった。

ただまぁ3週間すると流石に飽きる。しんどい。どれだけ頑張っても出来立てご飯には勝てないものなのだ。肉と野菜切ってめんつゆで炒めただけの飯の方が美味い。

 

結局色々試しているうちに何とか体調が回復してきたので、通常調理に戻った。やむを得ないとはいえ、翌月確認してみると食費は倍以上に跳ね上がっていた。外注ってまぁそういうことだし…。もうこれは単純にコストと質が比例していく問題なので、どこで満足度を妥協させるかなんだなあという感じ。

太陽を浴びると調子がいい

そう、そんなことある?って感じだけどマジでそう。太陽を浴びると身体が少し楽になる。少し回復してきたら、昼間の太陽が一番高く上った頃に、風の当たらない踊り場のような場所でゆっくりしていた。調子の良い日は読書をしていた。これが実に気持ち良い。心や生活が潤うとかじゃなく、本当に身体がラクになる。人間、結局のところは動物であり生物であり、地球内生命体なんだよな。重力の井戸の底は今日も晴れだよ。

感情と情報の自衛

あと何となく気をつけていたのはネットにダラダラ弱音を垂れ流さないことと、感情的な情報を遮断することくらいだった。インターネットは容易に感情をガタガタにさせてくるので、情報(ニュースとか)を得たい場合は基本きちんとしたメディアを通したもののみ摂取する。メディア、ライターによるものは感情に訴えるにしろそこにはプロの計算があるので、基本は安心して読める。今回は相手がプロフェッショナルなので作戦を立てることが出来ます、と荒巻課長も言っていた。プロというのはそういう意味で、それがプロの価値なので…。逆にSNSTwitterは基本的に情報と感情がまったく整理されない状態で流れているので(マァそれを楽しむ場なので)そういうあたりは自分でコントロールしないとインターネットに溺れて苦しんでいる人になってしまう。流れるプールに入るならちゃんと自分で浮き輪を持っていきなさいね。具体的には「知り合いの看護師が困ってて」「みんな助けてあげて」系のRTや政治世相への憤りを語るアカウントは全部TLから消した。美味しいパン情報やSF最新刊や昨日見た夢の話だけが流れてくるぼんやりとした社会が出来上がって、安心して流されることが出来た。それで、それでいい…俺がTwitterに期待するのは有益性ではない……。気持ち良いトロトロチャポチャポした河なんだ。

自分の求めるものがわかっている人間だけが求めるものを掴む、とSEも言ってた。

 

そりゃSEはそう言うよ。

 

 

色々あった(いやむしろ何も出来て無かったのだが)けれども、新年を迎える頃にはだいぶ回復していて、今はもうそこそこ元気ですくらいには戻っている。読書も少しずつ進めている。今はトマス・ピンチョンを読んだり南米麻薬体験記を読んだりしている。美味しいご飯も食べている。健康ってありがたい。体力と精神に余裕があるので、晴れた日にはしいたけを干したりしている。朝干した椎茸が夕方にはカラカラカピカピになっている。極めてローコストかつ短時間で想定した通りの成果が得られるので非常に満足度が高い。放置プレイスマホゲーなんて馬鹿みたいだ。みんなも干そう、野菜。干して困ることは何もない。

 

春になったらリングフィットアドベンチャーも再開しようと思う。

 

乙女ゲームの甘い沼でヌルルンヌルウン(2回目)

これまでのおはなし

乙女ゲームの甘い沼でヌルンルルしていた - 千年先の我が庭を見よ

前回『ニル・アドミラリの天秤』という乙女ゲームをやってキャッキャ喜んでいたところに、同製作陣の『オランピア・ソワレ』なるゲームがあるとの情報が入った。嘘だ。そんなもの勝手に入ってくるような環境にはない。自分でオトメイトのサイトをチェックして自力で掴み取った。買った。

レーティング17と18の間にある文学という美しい壁

このゲームは、「島に1人しかいない特別種の箱入り娘の少女に、種の保存を理由に周りから交配相手(夫)を決めるよう命が下る」というのが設定だ。エロい。何をどう足掻いてもハッピーエンドにはベッドが見える。エロい。でも18禁のゲームではない。ど、どうなるんですか?

非常に文学的なシーンになります。

所作は全てが描かれるわけでもなく、感情も欲情も比喩的に描かれる。言うなれば、神の視点で見えない部分は描写されない。スカートの下の太腿を這う長い指は、スカートの中に入ってしまえば描写されない。しかし神の眼でのみ見える部分、心裡については存分に描写される。興奮は血の流れではなく感情の流れによって描かれる。神経の効果ではなく、精神の結果が描かれる。これぞ官能。

17と18の間の美しく厳かな壁がそこにはある。

 

貴方と世界を知っていく

このゲームでは共通ルートという序章が終わった後に、攻略したい男性を選び、先にルートに入ってから選択肢を選び続けてハッピーエンドを目指す構造になっている。意中の男性のみが頻繁に登場するため、恋心が分散されず、快適にプレイすることができる。

同時に、各ルート攻略で明かされる世界の謎というものが上手く断片的になっており、全員攻略すると創世や理などの世界観の全容が分かる。キャラクター攻略の一方で、この謎の「どうなるんだろう?」の面白さが強く、没頭させる作りになっていた。それがまた、キャラクターの抱える問題とも深く繋がっており、「貴方を知る」事がそのまま「世界を知る」事になる。好きな人の事を知りたいからちゃんと世界と関わっていくっていうのは素敵だよね。

また、好みではないキャラクター、プレイのモチベーションが無いキャラクターでもこの「謎」のお蔭でプレイできる。そしてやはり全員プレイしたあとに得られる全容への知は快感である。これは別に乙女ゲームに限ったことじゃないね。

 

ただ、そういうストーリィの妙は、また別の欠点も生み出す。

プレイヤーは男性と世界の両方から情報が与えられる。彼の好きな場所、過去、背負うもの…を知る一方で、世界にある差別や土地の呪いを知ることになる。知るための行動をとり続ける。それはつまり、ずっと恋の駆け引きをしてれば良いと言うわけではなくて…世界によって1人の男性だけを見る時間(シナリオ)が圧縮されてしまっているのだ。

少女の「箱入り娘で恋愛に不慣れというキャラクター」と「恋愛部分シナリオの尺がないので駆け足で距離が縮まる」という都合が鬩ぎ合い、貞操感が歪なキャラクターにはなっている。

 

更に言えば、この『オランピアソワレ』は主人公が男性慣れしていないのに、攻略対象も恋愛慣れしてない年下キャラみたいな男性の方が多く、そういったあたりも歪だな〜と思った。

艶っぽい冗談を飛ばす柔かな年上の男性、というキャラクターもいたが、何故か途中から姉がいることが判明して、最後に「姉さん…!」と泣き始めてしまったので若干冷めてしまった。姉を求めないでくれ。もっと私を手の上でころころしててくれ。

言うてまぁcv杉田智和さんのカッコイイキャラ(玄葉)がめちゃくちゃ好みで最高だったな〜というのと、杉田さんの声好きだな…という部分で大満足出来た。しばらくYouTubeでAGLSチャンネル見ちゃった。やっぱりゲームの面白さも大事だけど「好みの声でいっぱい喋ってくれる」が最高だな。この調子で声優でゲームを選んでいきたい。津田健次郎さんとか聞きたいな。うーん催眠音声か?催眠音声の機運が高まってきたのか?

 

あと「手に入らないなら殺して俺も死ぬ」タイプの手練れっぽい年上が好きなことが分かってきた。「一緒に死のう」とか言わずにグサッとやるところがいいよね。死ぬ決意なんて私に求めないで欲しいんだ。手練れっぽい、というのは口説き慣れしてるというより、多分自分の中の感情とに付き合い方が上手い人が好きなんだろうな。ア〜ンンン〜〜〜〜〜

Happyの生まれ出る闇

シナリオが同じ人…というのもあるんだけど、『ニルアドミラリ』同様にこちらも「女性の地位が低い社会」が背景となっている。前回の記事では「女主人公の優柔不断な態度へのエクスキューズが上手い」と書いたが、どちらかというと「異世界転生ストーリィ的な快感」の惹起にあるなと感じた。

「女性が、地位が弱い社会の中で、存在が無視できない身分を持って、自身の意識で社会に改革を齎す」というハッピーエンドストーリー。それは、異世界転生で「持たざるものが環境一新してチートスキルで上位に立つ」というあの快感に似たものがある。現実の社会では個人の努力では一朝一夕では成し遂げられぬ成功の擬似体験、と見ると些かグロテスクだが、需要とはそういうものだ。皆が求めるものには理由がある。

ま、勧善懲悪だって同じだ。

 

少女という器が受け止めるもの

これは少女漫画でも乙女ゲームでもそうなんだけど、働いている女性を「OL」と呼称するのはもはや時代遅れだと思う。社会生活における性差は撤廃の方向に向かっている。

乙女ゲームのレビューを見ていると、マイナス評価では「主人公に共感できない」「主人公の性格がうざい」みたいな意見が散見される。没入感がその快楽を大きく左右するゲームにおいて、「自己投影しやすい女性」というものを追求するなら、社会にある価値観を絶え間なく更新していく必要がある。社会の進歩が加速している今、乙女ゲームもこれからもっと変化していくだろうな、と思う。

まぁでもそれと「男性からお姫様扱いされたい」は別だ。それは嗜好の話なので。

鬼畜眼鏡上司が好きだろうがドM生徒会長が好きだろうが、個々の嗜好を全て社会の解読と直結させてはいけない、と思う。作品一つを取り上げてそこから社会を読み解こうとするのって暴論じゃない?そういう嗜好に向けて作られただけの作品かもしれないのに…。このあたりは昔もう書いたな。*1

 

結局、「女性主人公が変わる」というよりは、多様性を重んじる社会になったので「少女の性格の背景」をきちんと説明しないとプレイヤーは「自自己投影できないゲーム」としてどんどん切っていくんじゃないかと思っている。

突然少女が出てきて「毎日仕事疲れちゃったなナ」「新学期が始まってドキドキの学園生活!」で始まった時の「少女の性格」に共通して持っているイメージが存在しなくなってしまった*2ので、より個性がない少女か、まず少女の成り立ちを描く序章のボリュームが増えるかしていくのではなかろうか。(このオランピア・ソワレは後者だ。)

つまり、アイドルマスターズやFGOのように主人公が希薄になるか、key作品や戦国ランスのように「そういうキャラクターとしてのなりきり」での異性とのキャッキャゲームがウケていくのかな、とも思う。前者は解釈の余地が無限大なので二次創作が捗るし、後者はニッチな嗜好に応える作品が出てきやすくるからどっちも良いよね。

 

 

秋にはときメモgirls sideの新作が出るというし、Switchを手に入れてすっかり乙女ゲーム情報を積極的に追いかけるようになってしまった。まぁ、情報って追いかけたりしてる時が一番楽しい。

前回ワイワイ言うてたが、まだ『ニル・アドミラリ』の続編も未だやってない。クリスマスまで積極的に善行を積んでいる。え?早くやりたいけど、やってしまうともう二度とやってない状態になれないのでやる勇気が出ない。わかる?

まぁ引き続き乙女ゲームを楽しんで行こうと思う。そして乙女ゲームレビューも続けていこうと思う。

 

 

*1:物語の美しい少女という呪縛 https://kiloannum-garden.hatenablog.com/entry/2020/07/23/185313

*2:アンジェリーク・ルミナライズは女性のその感じが辛くなって体験版さえすぐやめてしまった。