ブンガク、ブンガクね

『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短編29』を読んだ。日本文学における良質な短編をテーマ毎にいくつか編み英訳して出版されたものの、原著(というか日本語の)編み直し版である。

【目次】

・序文
切腹からメルトダウンまで 村上春樹

・日本と西洋
監獄署の裏 永井荷風
忠実なる戦士
興津弥五右衛門の遺書 森鷗外
憂国 三島由紀夫

・男と女
津島佑子
箱の中 河野多惠子
残りの花 中上健次
ハチハニー 吉本ばなな
山姥の微笑 大庭みな子
二世の縁 拾遺 円地文子

・自然と記憶
阿部昭
『物理の館物語』 小川洋子
忘れえぬ人々 国木田独歩
1963/1982のイパネマ娘 村上春樹
ケンブリッジ・サーカス 柴田元幸

・近代的生活、その他のナンセンス
屋根裏の法学士 宇野浩二
工場のある街 別役実
愛の夢とか 川上未映子
肩の上の秘書 星新一

・恐怖
砂糖で満ちてゆく 澤西祐典
件 内田百閒

災厄 天災及び人災
関東大震災、一九二三
地震金将芥川龍之介
・原爆、一九四五
青来有一
・戦後の日本
ピンク 星野智幸
阪神大震災、一九九五
UFOが釧路に降りる 村上春樹
東日本大震災、二〇一一
日和山 佐伯一麦
マーガレットは植える 松田青子
今まで通り 佐藤友哉

どの短編も、日本という国の時代、社会、環境に根付いた人間の感情や感性が素晴らしい筆致で描かれている。「素晴らしい」と褒めたが、人間という肉に内包された醜悪さだったり、どことなく無自覚に社会に育まれていく母親の虚無だったりと、そこで描かれる感情手触りは非常に悪い。読みおわって不快になる。よくぞ人間の社会的動物としての獣臭さを切り取ったな。「感情の手触りが悪い」はそこまで描ける作者の手腕としては卓越したものであると思うので、「ブンガク的には素晴らしいのは分かるが全然面白くない」という感想に落ち着く。

 

特に『焔』『今まで通り』などは一体何の話がしたいのかさっぱりわからなかった。バッドエンドとも違う、後味の悪い読み心地が残るばかりである。これがブンガクなのか?人間の同定できない無茶苦茶な感情を巧く炙り出したのがブンガクなのか?内容はどうにでも解釈できるとは思うが、これが、これが“名”短編なのか?と評価軸がよく分からなかった。