5月のこと

 5月が終わる。

時折吹く風に熱気が混じる。

濃くなった緑がそれぞれの昨夏を惹起させ、街に微かな倦怠をもたらしている。

いずれまた、長雨が一つの季節を遠く連れ去って行くことだろう。 

 

 

読書

 教養としての「税法」入門/木山泰嗣
教養としての「税法」入門

教養としての「税法」入門

 

 税というものに興味があったので借りてきた。

大学の講義のような内容に、という趣旨の通り「これから深く学びたいと考えている人のための入門書」として非常に優秀な本。もちろん教養として税法に興味がある人にとっても良書だ。最初に有名な判例を2つ上げ、それを基軸として税法の基本理念を説明していく。こういった専門書は最後まで読むのが中々しんどいものだが、読み手を飽きさせない構成が素晴らしく、また専門用語の説明とその省略加減も絶妙であり、初学者が躓かないようにという配慮がなされている。

 後半にあった某教授の、日本では税についての教育課程の不足が若者の主権者意識の低さの原因の一つである、という言は一理あるなと思う。

言葉人形/ジェフェリー・フォード

あまりにも美しい幻想小説。これを読まずして何を読むというのか。目眩く幻想は読むごとに魂の剥離を感じさせる。

本書はジェフリー・フォードの5冊の既刊短篇集から翻訳者が独自によりすぐった13編からなる傑作選だ。現実的なものから徐々に幻想的なものへとグラデーションをなす配列になっているが、この配列が読んでいて本当に心地よい。廃墟、季節の変わり目、小部屋、夜の長さ、その一つ一つの描写が酔うほどに美しい。ただただ、この言葉達をずっと摂取していたいと思わせる。

幻想小説として読ませておきながらスッパリと小気味良く悪戯のように終わる『ファンタジー作家の助手』、乱れた物理法則ならばSFとして愉快だが常識が狂っていると酩酊した読後感となる『私の分身の分身は私の分身ではありません』等々どれも面白いが、特に面白かったのは下記二編だ。

『言葉人形』

かつて野良仕事に駆り出される子どもたちの慰みとして用意された架空の友人…言葉人形。そしてその伝統はある恐ろしい出来事から廃れ、今はただこの博物館にのみ、その名残を留めている。....(カバー表紙裏より)

 このあらすじに惹かれて読み始めた。ホラーではなく、ただ「言葉人形」というかつてあった儀式について語られるだけの話だ。しかし、ホラーを読むよりもずっと、貴君の信じる人間性に強く爪痕を残す筈だ。一般的に儀式とは、どう始まりどう継承されどう終わるものなのであろうか?...そこでは「儀式」の野生の姿…利己的な目的達成と精神世界への干渉術という特性がむざむざと語られる。そして儀式という神懸かり的な非日常が、極めて人為的なものであったことを改めて痛感することになる。

『夢見る風』

この話が一番好きだ。とある町には、決まった季節の変わり目にだけ束の間の非現実の椿事をもたらす風が吹くという。体が椅子になったり、目が掌にいったり、オウムは人形と合体し、雲は紫色になり、木々はキリンの長い首になったり...ただ或る年に突然その風は吹かなくなる。.

恋の始まりから終わりまでを描くように、その町に住む人々にとっての夢見る風との付き合い方が描かれる。物語の起句“夏と秋が同じベッドにいて....”も素晴らしいが、話の展開と「不思議の終わらせ方」がとても好きだ。

 

この二編、起点と終点が真逆の作りとなっているが、本質的には「人為の神秘への昇華」の陰性と陽性を描いた対を成す作品である。『夢見る風』がどういう結末になったのかは是非読んで確かめて欲しい。

世界の凄いお葬式 From here to eternity/ケイトリン・ドーティ
世界のすごいお葬式

世界のすごいお葬式

 

タイトルの通り。アメリカで葬儀社を営む作者は、産業化、ファスト化していく葬儀業界に疑問を持ち始める。弔うって―――こういうこと?

そして世界各国の葬式を見学、レポート化したのが本書だ。訳に因るところもあるだろうが、作者自身の偏見を隠さず語り、日本人の読者にとっては「アメリカという文化背景を持つ人間から見た世界の葬式」というフィルターそのものにも真新しさがある。もちろん、 日本も取材されている。

住民参加の野外火葬:アメリカ・コロラド州クレンストン

 クレンストンではキャンプファイヤーのように住民参加で火葬する。土葬が一般的なアメリカでの火葬ということ、火葬時の土地確保や住民の理解などを描く。

秘境トラジャ族の死者と共にある生活:インドネシア・南スラウェシ

...南スラウェシでは死とは生命の停止ではない。死体となった後であれ。共に過ごしミイラ化した家族を彼らなりの流儀で弔う。一度土葬した後でも家族は掘り起こし、掃除して、花を飾り服を着せる。(つまり、お盆に魂だけが還ってくるのではない。文字通り帰ってくるのだ)「死」というものの定義が違う土地での葬送を描く。

花の祝祭、死者の日:メキシコ・ミチョアカン

007の映画によってショーと化した祝祭。アメリカでは死というものを、臭いものに蓋をするようにタブー視する。幼子を亡くしたアメリカ人がそういった世俗背景において「死と向き合うことさえ許されない」と感じ、この祝祭に参加する。死、そのものをタブー視せず身近に置くものとする世間を描く。

死体で肥料を作る研究:アメリカ・ノールカロライナ州カロウィー

こちらは土葬だが、 「土に還る」ということを文字通り行う研究だ。検体提供された死体をおがくずなどと一緒に土葬し、肥料になるかどうかという研究を取材する。「自然に還るって素敵!」という精神的な発想だけでなく、アメリカという膨大な国土を持つ国であっても絶え間なく発展するこの社会において「墓地」の土地問題は深刻だ。土地があれば埋めればいいってもんじゃない。荒野のど真ん中に土葬されたいか?NOだ。できれば自然豊かな緑の土地に埋められたい、でもいずれ場所はなくなる。その未来へ向けた非常に現実的な研究なのだ。

地中海の陽光あふれる葬儀社:スペイン・バルセロナ

アメリカに比べ、火葬率が向上傾向にあるヨーロッパの火葬場を取材する。日本人からするとあまり異文化という感じがしないが、死体と遺族の時間・向き合い方など死後、肉体が灰になるまでの間に、やはりその土地ならではの宗教観がある。

高齢化と仏教とテクノロジー、SFのような世界:日本・東京

東京の幸國寺の納骨堂。壁一面に2000体の青く輝く小さな仏像達が並べられている。入り口のキーパッドでIDカードか故人名を検索をすると、1体だけが純白の光に包まれる。これでちゃんとおじいちゃんに墓参りできる、というわけだ。四季に合わせ、柔らかなLEDイルミネーションも揺らめく。「仏教はいつも時代にあわせて変化してきた、ハイテクと相性が良い」

火葬率99.9%と世界でも比類ない火葬大国である日本。日本人である我々にとっては当たり前の感覚だが、世界では今も「火葬反対」が多い先進国(特にカトリック教徒)は少なくない。そんな日本では問題は次なるステージに向かっている。墓場の土地不足に加え、核家族化といった世相の変化によって、墓はどうするのか・その墓の維持は誰がするのかといった不安が叫ばれるようになった。そういった時代に合わせて、日本ではどういう答えを出したのか。まるでSFの、冗談のような世界だ。最先端の葬送業界の発展を知ることが出来、異文化というフィルターを通して見る我々の死生観というのもなかなか面白い。 

頭蓋骨信仰:ボリビア・ラバス

頭蓋骨にお願いごとをする。頭蓋骨にはそれぞれ名前があり、金運が得意な頭蓋骨だってある。我々が神社でお願いごとをするように、死者の頭蓋骨に祈る文化がある。生前に聖者だったわけでもなく、また頭蓋骨の名前も生前の名とは関係がない。葬送というよりは、死そのものとの特殊な向き合い方だ。

 

葬送という儀式を通して、それぞれの土地に根付く「死」への観念を描く。著者に同行するその土地の人々による言も興味深い。信仰心の違いよりも死生観の方の違いの方が、異文化が異文化であるということを理解しやすい。

 蜜蜂と遠雷恩田陸
蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

 

 ようやっと読んだぜ。

恩田陸ファンとしては、あ...あれ!?小奇麗に纏まってますね!?と回りまわって拍子抜けしてしまった。恩田先生の作品は拍子抜けするのがオチみたいなとこあるじゃないですか?拍子抜けしなかったので拍子抜けしてしまった。

クラシックピアノコンクールの話なのだが、各演奏者の奏でる何曲もの音楽をただ文字だけで表現するって凄まじい技だ。白眉。恩田陸という作家の力量をこれでもかと叩きつけられている。勿論とても面白い、しかし「優等生」っぽい作品だなあと思う。これが直木賞受賞作というのも、ピアノコンクールにおいて「ただの優等生」が零れ落ちていくという話を抱えているだけに皮肉っぽいなと思う。

作品の凄さは随一だったけど、個人的には『麦の海に沈む果実』とか『ユージニア』の方が好き。

 錆喰いビスコ/瘤久保慎司
錆喰いビスコ (電撃文庫)

錆喰いビスコ (電撃文庫)

 

世界観がシンプルでありながら小気味よく、キャラも魅力的、ストーリーも起承転結はっきり流れてり、非常に読みやすい。これぞティーンズ向けライトノベル!といった感じ。キャラにしても話にしてもアクがないので展開が読みやすいが、結局のところ「丁寧に作られた王道」ってのは大正解の一つなのだ。(俺たちは幼児向けアニメで強く実感している筈だ)そう、面白い。

そのうちアニメ化すると思います。

書く力 私たちはこうして文章を磨いた/池上彰,竹内政明
書く力 私たちはこうして文章を磨いた (朝日新書)

書く力 私たちはこうして文章を磨いた (朝日新書)

 

今、君が何らかの文章を不特定多数の誰かに向かって書こうとしているなら、買え。

朝日新聞編集手帳(一面の下にある記者コラム欄)の担当者:竹内氏と池上彰氏の文章術対談本。名文賞賛、実際に書いた記事の解説などを通して、両氏のテクニックを知ることが出来る。

例えば、新聞という不特定多数を読者にしてきた竹内氏は「雨をテーマに記事を書くとして、週末は雨で困ると書けば、農耕者からは雨が降らないと困るとクレームがくる。全方位に向けて書くというのは、こういう事に気をつけること。書いているうちにこういったことへの保険のような掛け方がわかってくる」と例を紹介する。また、放送・ラジオ原稿を手がけてきた池上氏は、そのメディアの特性上、話を引き返すことはできないから、読み上げてそのままスッと理解しやすい構成を心掛けると話す。

多くの文章術本は「まともな文章を書くこと」に重点を置きがちだが、本書では更に一歩進んだ「多数に読ませる書き方」について語られる。文章の構成や、話の展開と締めのキレ、言葉の選び方など「書く」という事に研鑽を積みたい諸君には必読の書と言えよう。 

アニメ 

 甲鉄城のカバネリ 海門決戦
其の一
 

 ンアア~無名ちゃんかわいい~アクションも最高~ってなる。

本作はTVアニメ『甲鉄城のカバネリ』の続編で、30分x3話というとても見やすい構成になっている。主人公である生駒(男)のアクションは控えめ、ヒロイン無名ちゃんがデレデレで、しかも冒頭のキャッチーな戦闘もラスボス戦も、良い所は全部無名ちゃんが戦います!更に、ファン垂涎の列車に無茶をさせるやつもやります!...とまあ、完全にTVシリーズファン向けの作品。ショートストーリーながら、この作品の「面白いトコ」全部つめこんで、ちゃんと話も起承転結ある。ええもん作ってくれたワ...

色々言ったけど、この方の感想が一番的を射ている。

ちなみに『甲鉄城のカバネリ』アニメもおすすめ。(今ならPrimeでも観れるぞ!)ゾンビ戦国スチームパンクという世界観のアニメ。カバネと呼ばれるゾンビが跋扈し崩壊の危機迫る日本で、鋼鉄の蒸気機関車で移動生活をしながら砦と化した街々を巡る。カバネに噛まれ、ゾンビ化するも人間としての自我を残し「カバネリ」となった主人公はその世界をどう生きていくのか、という話。アクションあり、人間成長あり、スチームありで非常に面白い。(ただゾンビモノなので視聴は疲れる)

OPもカッコイイんだけど、何よりOPの最初に「貴様...ヒトか?カバネか!?.....俺はカバネリだ!」って台詞が入るんですよ、そこがいいんだよな~~~!分かるか!?

この世のアニメにはダサかっこいいものが3つあって、「台詞が入るOP」「長いが叫ばれる必殺技」「戦いの最中で問われる反語法」なんだよな。分かるか!?

youtu.be

 PVは無名ちゃんがカワイイやつを貼っておきました。

 

パン

「耳までやわらかい食パン」、ちゃんと買って食べたか?