ソーシャルネットワーク

見てきました。
見所は3つ

1)音楽が非常に良い
 主人公(マーク)が典型的ギーク。というか、若干自閉症に近いような性格として描かれている。天才にありがちな設定だが、自分の研究開発以外にまったく興味がなく、周囲への気配り・空気を読む、人の心を察するなどが殆ど出来ない。表情も殆ど変化せず、自分の作品が認められたときだけ僅かに嬉しそうな顔をするだけだ。
そんな主人公の高揚を音楽が代弁している。
発想をそのまま創作に繋げて完成させていくわくわく感、自分の作ったサイトアクセス数が跳ね上がっていく瞬間、フェイスブックがどんどん進化していく度にガンガン音楽が流れる。BGMとして流すには心臓に悪いくらい、cool!な音楽。おそらく出だしの主人公の女子比較サイト作りの過程の音楽でヤられた人は多いのではなかろうか。

2)自尊心と劣等意識
 主人公のフェイスブック作りの起因は劣等意識にある。大規模サークルにも入れない、彼女にも振られる、自分が面白いと思って作ったサイトは非難轟々、言ってみれば「リア充」になれない主人公だからこそフェイスブックの価値を誰よりも分かっていた。しかし彼の動機はおそらくリア充を見返したい、というよりは、「あいつらよりも僕ならばもっと上手くできる」という自尊心だろう。嫉妬というよりは傲慢さが彼の原動力だったと思う。物事の始まりが決して美しいものではない、という人間くさい科学の発展を感じさせる。
 そして何より彼は「自分のしたい事ができればそれで満足」なのだ。
主人公はおそらく子供すぎる感覚の持ち主で、自分の作った玩具が有名になって、それがどんどん進化していくのが楽しいだけなのだ。しかし、現実にはその為に金がいる。一人では作れない、労働力がいる。おそらく周りが次第にフェイスブックを商品として見始めたのに対し、主人公だけがずっと「自分の玩具」感覚だったのだ。

最も印象的なシーンは、主人公を「アイデアが盗られた」として訴えているウィンクルボス兄弟について、弁護士が尋ねた一言
弁護士「あなたはあの兄弟が嫌いなの?」
主人公「嫌いじゃないよ(I don't hate everybody)」

英語は得意じゃないので上手く聞き取れていないかもしれないが、おそらくこの「別に僕は誰も嫌いじゃない」という主人公のセリフは主人公のキャラクターを全て物語っていると思う。フェイスブックはアイデア盗作の作品だと訴えられ、CFOを降ろされた親友に慰謝料を請求され、更に手を組んでいたハッカー?は薬で捕まる、そんな人間関係悪循環の彼でも「嫌い」という感覚はない。興味がないのだ。友達作りサイトを運営している彼が一番、人間関係の構築が下手なのだ。
そのあたりの性格からも、最後のオチは非常に面白く、巧く纏めたものだったと思う。
まぁ結局、人間関係の構築って幼い基本からしか、始まらないものなのかもしれない

3)「トモダチ作り」サイトと人間関係の拗れという皮肉
上記でも述べたように、「友達を増やすサイト」というものを作って、何万人という人が登録しネットワークを広げていく中で、肝心の主人公、そしてそれを取り巻く人々はことごとくコミュニケーション下手だ。この映画そのものも、フェイスブックを作ったことによって生まれた個人的な関係での利権争いが主軸となっている。この皮肉は映画を見終わった後に考え出すと、じわじわ恐ろしくなる。
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映画全体として、ソーシャルネットワークそのものの実態よりも、その開発過程における人間関係の生々しさを描いた作品だったと思う。mixi疲れだの、ネット信頼性だのというよりは、知的財産法に興味がある人の方が楽しめるかもしれない。
ただ、一つ、物語の進むスピートが異常に速い。始めから、時系列が乱れつつ、物凄いスピードで話が進んでいく。会話そのものも早口で流れる。それがネットにおけるサイトやフェイスブックの拡散スピードを表わしているのだろう。そういう表現方法は面白いな、と思ってみていたが、脳はもの凄く疲れる。
表現といえば、暗喩の上手いシーンがいくつかあり、「国語の問題文読み」のような見方をする私としては非常に楽しかった。例えば、ある人がフェイスブック成功真っ只中に主人公に「これ以上規模を大きくしていくならもっと大胆に行動しなければ、河に身投げすることになるぜ、××みたいにな」と警告するシーンがある。その直後に突然ボート部の接戦レースがBGMのみで流れる。河、という言葉からイメージ連鎖を繋げつつ、フェイスブックの急成長を暗喩しているのだろう。その後のシーンでフェイスブックは大陸を越えて広がったことが分かる。そういった暗喩表現が音楽と相まって非常に巧い。ぞくぞくするのだ。

ハリウッド映画を期待して観るとガッカリだろうが、プログラミング、そしてビジネスとしての開発、というものに興味がある人にとっては非常に考えさせられる映画だったと思う。