The Catcher in the Rye

ようやく、『ライ麦畑でつかまえて』を読み終わった

実に6年。
多分、読もうと思い始めたのは中学で、実際に手にしたのは高校の頃。
途中でやめて、大学でやっと読み終わった。

ナインストーリーズはとっくに読んでいたんだけども。

とても面白かった。
大人に反発を覚えながら、大人の振りをして背伸びする子供っていうのが非常に巧く書かれている。そういった矛盾を孕んでいるから、時折見える稚拙な行動がとても共感できる。

煙草や酒に安易に手を出して、「女の子ってのはわからないもんだなぁ」とか良いながら、その場の空気で愛してると言う。セックスってやつは、なんて達観した振りをしながら、実際考えている事は拙い。


誰しもが経験した/しているであろう「若さ(或いは幼さ)」を細やかになぞっている。


小説内の時間経過としては非常に短いのだけれど、その中で、ホールデンは日常のどうでも良いような事からイチイチ深く考えて、ぼうっとしながら衒学的なことを考えたりする。
なんでもない一日の「24時間」という時間が、その瞬間毎にはとても意味を持っているが、後から考えると何とも無為な時間だった。
良く考えれば、俺は一体何を喋って何を考えていたんだ?
ふと過ぎ去った時間を思い出して感じる虚脱感。

若さゆえの義侠心。幼い哲学。


「自分だけがこんなに考えているんじゃないか」という自分以外を見下して悲観するような、それでいて甘ったるい孤独感に溺れるナルシズムにこの小説はとても気持ちよく寄り添ってくる。

「自分だけじゃないんだ」という”唯一の”理解者を得た気持ちよさ。

本当に僕が感動するのはだね、全部読み終わったときに、それを書いた作者が親友で、電話をかけたいときにはいつでもかけられるようだったらいいな、と、そんな気持ちを起こさせるような本だ。
白水Uブックス/3章,P32,L5-7)

まさに!多くの読者にとって、コールフィールド式に言えばこの本は「感動する」本なんだろうと思う。そういう意味でサリンジャーは天才だ。


そして更にこの、野崎 孝 氏訳の飄々とした文体がとても良い。
勿論この文体の所為で読みづらくて、高校の頃はやめてしまったのだけれど、読み終わる頃にはクセになっている。凄く良い。小説を味わうってこういう事。
図書館、BOOKOFFを歩き回って野崎訳を探した甲斐があった。


最後に
これは高校〜大学の間に読んでおくべき小説だと思った。特に男性。「読んでおくべき」というのは、読め、という意味ではなく、どうせいつか読もうと思っているならば、この時期にすべきという意味。
この感覚が一番楽しめるのは学生の間だと思う。

本というのは読む時期がある。
食べ物と一緒で旬というものがある。この時期に読むと一番良く味わえるという時期がある。
それは明朝だったり、中学の頃だったり、時間のサイズは様々だけれども
ただ、残念ながらそういうのは読み終わってからしか気付けない。

十二国記をもっと幼い頃にわくわくしながら読みたかった。
星の王子さまは子供の頃と、大人になってから二度読むとその大切さがよくわかった。
MAZEを深夜に読んだのはとても良かった。

折角なら、一番美味しいときに、舌が敏感になっているときに読んで欲しい。

余談だが、攻殻の「笑い男」については本書を読むと、その性格に非常に納得がいく。
あの思想の青さだとか、笑い男論争だとかはホールデンそのものだと思った。

良かった。とても良かったよ。