不確実性憐憫と絶対魔獣戦線、「世界の揺らぎ」という名の投石

「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ」*1村上春樹は言った。

常に一番弱い人間の側に立って考える事は優しさでは無い、と思う。こう考えたのは氏のこの言葉に由来するわけでは無いが、数多の事情や環境があってそこにもし困難と悲劇が生まれるのであれば、常にそれに寄り添うことは、その憐れみは正義なのだろうか?と思う。この問いは大義を問うものではなくて至近の出来事によるただの懊悩の吐露である。弱さはよく目につきやすい。共感出来る事なら尚のことその痛ましさ救ってやりたいと思う。ただ、救うことでまた別の弱者が生まれるとすれば、みずからその弱さを克服したものにとって、その憐れみはただの不平等ではないだろうか。(ここで言う弱さの意味は社会的弱者の意味に近い。近いけどそういう社会的な論議ではない)詰まるところ、優しさとは憐れみに基準を持たせること……だと思っている。その最たるものは法律であろうが、ではそれをどこまで…個人の単位に落とせば良いのかが分からない。冒頭の氏の言葉が胸に刺さる。そういう風に、言い切ってしまえる価値観を築き上げたいと思う。舞城王太郎の小説に出て来るキャラクターもそうだ。自分の人生の信念と価値観の基準をこうだと決めて、それに従って生きるということが出来ている。自分の信念はこうだからここはこう判断しよう、という思考回路に憧れる。迷わない、という強さに憧れる所以は、その整然とした思考ー精神性の美しさにあるのだろう。私は未だ、どこまで自分の感情に絆されたら良いのかが分からない。

 

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫)

 

 

 

Fate grand order/絶対魔獣戦線バビロニア』のアニメが始まった。

fgoは数多の過去の世界を巡りながら人類滅亡の原因を排除していくゲームだが、今回はその最終章のみがアニメ化だそうだ。fgoはちょっとだけやった。設定と戦闘システムは面白いものの、ガチャの渋さと育成のダルさ、ストーリーの馴れ合いが肌に合わなくて3章くらいで辞めてしまった。Twitterで散々言ったけど、偉人(英霊)同士が時間を超えてワイワイ馴れ合い漫才やったり戦ったり女体化してたりするやつ、もう『境界線上のホライゾン』っていう濃密ライトノベルで存分に味わったんで…。

とは言えfgofgoでキャラも可愛いし、歴史解釈もそれはそれで面白いので第1話まで見てみた。までっていうのは0話もあるからです。凄い。何が凄いって構成が凄い。このアニメは最終章のみをアニメ化するものだが、それでもまず初歩的な人物や環境の設定説明が必要だし、一方でー彼らの旅路で得たものをきちんと描いた上での集大成も望まれているわけだ。それを第0話でうまく30分に纏めたのは凄いと思った。もちろん「fgoってナニ?」レベルの人にはちょっと説明不足な部分もあるが、前述のあらすじ程度の知識なら「何となく楽しめそうだな」というのが分かる。何より、ちゃんと最終章として、主人公達が今までの旅路で何を得てここでどう果たされるのかをきちんと前提で描いてきたところが凄い。音楽効果もあるんだけど、それによってこれから始まる最後の戦いに臨む主人公達の感情がきちんと輪郭を持つようになった。うーん、凄い。上手い。今期はこれを見ていこうと思う。*2

 

Episode 1

Episode 1

 

 

あとはアニメ『バビロン』も3話まで見た。『正解するカド』もちょっと見たけど…野崎まどがあんまり合わない気がする。扱うテーマへのアプローチの仕方が上遠野浩平っぽい。つまり、ボクはもう思春期ではないので、そういうのは恥ずかしくッてもう…まともに見れないな。これは上遠野浩平作品への褒め言葉です。あの作品はとにかく思春期のティーンズを狙い撃ちにして彼らの世界への疑念と理想を揺さぶることに存在理由があるからね。ブギーポップは確かホーリィ&ゴーストまで読んだかな。まぁそれはともかくとして、大人になって世界への揺らぎ、みたいな投石が効かなくなっちゃったんだよな。

もう世界がどれだけ不確かで曖昧なものかよぅく分かっちゃってるからさ。

そしてそれとは別に更に小説『Hello World』も読んだんだけど、これもあんまり好きじゃなかった。感動のクライマックスの為に恋があって死があって、そういう風に愛を扱って欲しく無いよ、俺は…。これはタイタニックのあらすじを聞いて映画を観る気になるかどうか、みたいな好みの問題なんだろうけど。世界があってそこに人間がある話が好きで、主人公達のために世界がある話はあんまり好きじゃない。これは前回の読書会の時に少し話した。(前回の読書会?)読書も長いこと続けていると、自分の好みに関する嗅覚が鋭くなってくる。野崎まど、あんまり合いそうにないな〜と思ってたけど、やっぱりウーン私はあんまり好きじゃなかったな…。

ま、読書も旬があるからね。人生の…

 

HELLO WORLD (集英社文庫)

HELLO WORLD (集英社文庫)

 

 

 

*1:エルサレム賞受賞式でのスピーチ。良いスピーチなので是非検索して全文読んでみてね。

*2:リンクは1話だけど0話もあります。なんでか0話のリンクが無かった