映画を見終わって1週間くらい経ってから書いているので、朧げなところはある。
映画の核心に触れる重要なネタバレを含みます。
・全て期待通りの最高の映画だった。
・洗濯機の伏線が綺麗に回収されて美しい。
・主人公の性格とミスリードが非常にうまかった〜配役の妙。
・「どうやって爆弾をいれたのか」というトリックの詳細が非常に分かりづらかった。説明される物流の仕組みを理解しながらなので、頭が全然ついて行かない。
・以下はトリックの整理。
セール前に商品を購入し、爆弾とすり替えて返品する。(この際、物流代行サービス経由であるため、倉庫に戻った際に検品がなされない?)次に、ブラックフライデー前に派遣社員として潜入し、デリファス直取引の商品シールと物流代行サービス商品=爆弾)シールを張り替える。直取引商品がセール対象となるため、直取引商品が優先的に注文され、爆弾が出荷されていく。
前提:倉庫内の商品は、物品がジャンル分けされて配置されているわけではなく、ピッキング作業は全てシールのバーコード基準であり、同じものが一箇所にまとまっているわけではない。
推測:商品製造過程での爆弾すり替えを疑われると目線がメーカーに行ってしまうので、一番最初の爆弾はデリファス社製の製品の開梱に伴うものでなくてはならなかった。
・犠牲死亡者がゼロ、というのはやはり視聴の体験が全然違う。エンタメとしてのラインだなと思った。
あるいは、全てを被害者にすることでようやく社会が真犯人たりえるのかもしれない。
・ただ一方で劇伴音楽による演出が過剰な気もした。不穏かどうか怪しげなシーンでも音楽が先に不穏なので、このシーンは何か起こるな、と分かってしまう。観ている側の精神には優しいのだが、ストーリーの構成や絵が良いだけにそこまでしなくても良いのではと思ってしまった。
・絵はすごい良い。横たわる、という動作に読ませる感情の数々に感服した。映画とかドラマの醍醐味って「絵」だっったんだ……!と初めて実感した。
・ユニバースシェアはファンへのサービスと思っていたけど、そのレベルどころではなかった。
脇役ではあるが、MIU404やアンナチュラルで登場した高校生たちが、それぞれ未来に進んだ姿で登場する。MIU404第3話の桔梗隊長の「(犯罪を犯していても)今の若者を(罰するのではなく更生の機会を与え)救うことが十年、二十年先の治安に繋がる」という正義の美しい成就が描かれており、感動的である。
また、アンナチュラル第8話では「歯科データがあればこの焼死体の照合が出来た…」というストーリーの傍流で、東日本大震災を経験したUDl所長が本当は全国の歯科データ統一が悲願であったことが描かれている。その上で本作では、物語のキーとなる焼死体の身元の最終照合に歯科データが使われており、アンナチュラルの時代からは一歩進んでいることが意識的に描かれていると言えよう。
桔梗隊長にしろUDI所長にしろ、自分の範囲での社会に対する正義を持ち、それを貫き通した未来で、きちんとそのため結果としての前進が描かれているのだ。強い祈りを感じる。
・という祈りからの、ストライキがあり、「好きにすれば?」があり、一人鍵を握り悩むコウの姿で終わる。
・例えばあなたがずっと壊れていても/構わないから僕のそばで生きていてよ
・これもまた祈りだ
面白さという餌を通して私たちは積極的に見えていなかった世界を知る。自分の歩まなかった人生に対する想像力を育む。関心を寄せる。エンターテイメントが出来ることの臨界点にいるな、と思った映画だった。