我々は常に数千億円を所持した状態での南の島の生活を夢見ている

言葉人形というものをご存知だろうか。

 

言葉人形とは、かつて野良仕事に駆り出される少年少女たちに、その務めの辛さから逃れるために用意されたそれぞれのイマジナリーフレンドのことだ。彼ら・彼女らは日中の辛く重い野良仕事の最中に、大切な架空の友人と楽しい会話を繰り広げる。仕事が手伝える年になったら、大人たちが儀式を行い、それぞれにそれぞれの、たった一人の大切なイマジナリーフレンドを与えてくれる。牧師のジャック、仕立て屋のメアリー、学者のトニー、教師のオフィーリア...。

しかし、とある子供...それは当然問題の多いあの子...に「百姓のイマジナリーフレンド」が与えられてしまったことから悲劇は始まる。辛い野良仕事から逃れるための存在なのに、その存在が野良仕事に従事しているのだ。逃れられないどころか、むしろ追い詰める存在となってしまった。儀式はやり直せない。そして....

 ....というお話だ。

 

皆さん、アメーバピグはやっていましたか?

アメーバピグって何?

アメーバピグっていうのは、「いらすとや」の親戚みたいなデザインの3頭身キャラクターをアバターにして、自分のマイルーム(ネット上)やお花見広場(ネット上)やショッピングモール広場(ネット上)で他の人たち(ネット上)とコミュニケーション(ネット上)をするサービスだ。

もう無くなったんじゃないか?

s.life.pigg.ameba.jp

無くなっていた。

コミュニケーションといっても、特定の誰かに話しかけるなんて殆ど誰もしていなくて、虚空に話しかけている者同士の中で、たまたま何らかのパルスが噛み合って「会話」になるという程度だった。

 

言葉人形だ。

 

我々は常に数千億円を所持した状態での南の島の生活を夢見ている。

そこには涼を誘う緑があり、空を映す青い海があり、美味い肉と焼き立てのパンと新鮮な野菜があり、柔らかくて清潔なソファと、凄く速いインターネットがある。

でも現実はこう、こうだ。

辛く重い仕事から逃れるために、わたし達はわたし達の分身…「架空のわたし」を作ろうとする。しかしそこにあるのは自分ではない。あなたがその分身を頭の中の南の島に連れて行った時、そこにいるのは透明なあなたと分身の2人であるはずだ。そう、分身は「自分」という皮を被ったイマジナリーフレンドなのだ。南の島でパイナップルジュースを飲んでいる彼を見て、わたしは嬉しくなる。まるでそのテーブルの向かい側に座っているみたいに。

朝日が通勤経路をギラギラと照らし、地獄の釜の様な夕焼けが過ぎ去っていくのをコンクリートジャングルの中から眺めて、三日月が沈む頃に面白味のない木造住宅へ帰る。そんな現実の一方で、豊かに暮らす分身がいる。わたしはLED照明の真下に座って両手はキーボードを叩いているが、子供たちが鍬を握りながら頭の中で言葉人形と楽しい会話をしていたように、頭の中のわたしは波打ち際で部屋に飾る綺麗な貝殻を探している。その横に本当の私の意識がいて、からだは無いけれど分身のわたしを導いている。楽しい方に。

 

アメーバピグの中の雑多に彩られた広場の中で、奇声をあげる他人を避けてクリックで移動する時、そこには透明なわたしに導かれて移動する、わたしのイマジナリーフレンドが居たのだ。マウス、コントローラ、テンキー、何もかもを通じてわたしは楽しい方へ楽しい方へと彼/彼女を導いていく。部屋も綺麗にしてやる。庭には花を植えてやる。頭の中で思い描いて、画面の中で想像の具体性に肉付けしていく。幻想が仮想になる。南の島は目に見えるデータになる。

 

そこには凄く速いインターネットがあることだけは分かっている。

 

 

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