君を苦しめる架空の過去の鬱屈

ソラニンを聞いている。

youtu.be

ソラニンを聞いていると懐かしい哀愁が押し寄せてくる。でも例えば緩い幸せがだらっと続いていて悪い芽が出てサヨナラ...なんて架空の未来がある分岐点は無かったし、ああの頃の僕らにはもう戻れない...なんて後悔できるほどの怠惰で激情的な関係性なんて持っていなかった。全部ニセモノの哀愁だ。そんなの無い!無い無い!ウアァアーーッ

 

音楽は容易に自分の無かった過去の感情を呼び寄せてくる。寄り添うリズム、響くギター、歌われる情景、心に沁み込む感情....やめろーー!!!俺もお前もバスの停留所で待ちぼうけをくらって孤独を嘆いた記憶も無いし、君の髪型を変えたことが気がかりな記憶も無いんだーー!!無いのに、心の奥底にあったらいいナと植えつけられた優しい孤独の萌芽が、哀愁の慈雨に喜びの声を上げている。優しい孤独なんてありません。思い出せ、冬の冷気から染み出す夜の孤独を、そして飢えと傲慢が齎したお前の地獄を...。

 

危ない。

こうしてあと三十年後には「あの頃はさ...良かったよね。今も悪くないけど、そうだあの頃には全てがあって、何も...何も無かったよ」とか言ってしまうんだ。少し前に流行ったシンガーの歌うあったようでなかったような誰かの過去に自分の過去を上塗りされていく。えっ...もしかして、あの時別れてからもう二度と会っていないあの人...に言い忘れたことあったんでなかったかな!?あの時、好きだって(俺の)(あの子の)気持ちに気付いていたら、違う未来が...あったのかな...?

 

無いです!なーいの!解散!

 

散り散りになったあとで、また一人に戻った帰り道は耳にヘッドフォンをセットしてしまう。耳の奥に心地よい哀愁が流れる。そういうこともあったし、忘れてしまったけど言えなかった言葉のことも、間違っていたような気がするけど見ない振りをしてきたあの一瞬も、気付いていれば変わったような気がするあの一瞬も、みんなで共有しようね。みんなであれを思い出そう、あの頃....あれ、ああ..切ないね。あれもこんな空気のこんな夜のことじゃなかったかな、ね、ね、ね....一億六千万のおんなじ孤独が排水溝に溶けていくね....ね、ね...。

 

ブラッド・ミュージック  (ハヤカワ文庫SF)

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