量子怪盗

量子怪盗 (ハヤカワ文庫SF)

量子怪盗 (ハヤカワ文庫SF)

ポストヒューマンでシンギュラリティなスペースオペラにそう、ポストサイバーパンクだっけ?
ゼロ年代アニメのような登場人物たちが騒ぎ立てる。
でもベースは古典的な冒険小説だ。

本当に「これからこの物語はどうなるんだろう?」という冒険小説ならではのわくわくが詰まった小説だった。
すばらしい。
たちもさることながら、とにかく話の作りがもう「そういうファン」には堪らない展開で続いていく。
物語は記憶を失った宇宙を股にかける大怪盗が突然現れた褐色美少女(強い)の手によって脱獄するところから始まる。
表紙から分かるとおりこの美少女は尻が最高(このあたりがサイバーパンク好きを唸らせる(サイバーパンクファンは尻が好き楽園追放しかり)))
もちろん皆様がお好きな通り、この美少女は男性の全裸を見たら嫌悪の眼差しを向け、デレ期には手を繋いだだけでウキウキしちゃうタイプなのだ。
一方大怪盗の方は、自分の仕事に芸術性を感じているタイプで軽佻浮薄、窮地でもジョークは飛ばす。勿論、宇宙船のAIも口説いちゃったりする。(みんな違いのわかるオッサンが主人公なのも好き
そこに、大怪盗の昔の恋人だの素人天才探偵だの、正体不明の少数精鋭特殊警察だのが出てくる。
昔の恋人、怪盗と探偵、美少女、そのなかで王道の人間関係とドラマが繰り広げられる。
しかしながら、ただのキャラノベルに終わらないのがこの小説。
舞台には、精神牢獄だの宇宙船だの火星の移動都市だのと壮大なSF設定が敷かれているのだ。(大好きルビ振り独自SF用語
これがまたワクワクする。
独自SF用語があるとストーリィ理解難易度がぐっと上がるものだが(ニューロマンサーやイーガン作品しかり)それほど難解ではなく、読み進めるうちに大体の意味はつかめてくる。

何より声を大にして言いたい。
和訳がとても良い。
原著を読んだわけではないけれども、クセのない文体に用語も字面で分かり易く訳されている。
こういったSF長編をきっちり最後まで読めたのは単純に訳の上手さもあると思う。
そして何より、
美少女の一人称を「ボク」にしたところに私は百万本の薔薇を捧げたい。

もうね、この一点でお分かりであろう。
読んでいくうちにこの美少女の一人称は「ボク」以外ありえないな、って思えてくる。
いやーホンマSFは訳者でその物語の味がだいぶ変わると思ってるけどね?
最高になったよね。絶対。

おすすめします、量子怪盗。
わくわくを求める諸君等に是非!