インセプション

公開当時から「円盤になったら見よう」と思いつつ、ずるずる4年が経っていた。
やっと観ましたよ、インセプション

「またか!また過去に愛した女性を失った所為で精神不安定になったレオナルド・ディカプリオがなんやかんやして陰陽どちらにも取れるエンドを迎える話か!」
(シャッター・アイランドのことを言っています)

そろそろ過去に愛した女が現状のミッションの障害になる設定はもう飽きてきたのだが、禍根の残る障害というとそれ以外にはインパクトのある設定が無いのか.......。
まあ男を滅ぼすのは金と女というのが俗っぽいながら定説なのだろうな...。

さて、パプリカじゃんと言われていたインセプションだが、ざっとストーリィを要約しつつ、面白かった点を紹介しよう。
冒頭からいきなり仕事を失敗し、高飛びを決意するレオナルド.ディカプリオに「競合会社の次期社長の夢の中に入って、
彼に会社を潰すような意識を植え込んできたら万事オッケー状態にしてあげるよ」といううまい話が転がり込む。
うまい話に乗らざるを得ないディカプリオは、夢の中で活動するためのエキスパートたちを集め、そのミッションに挑んでいく。
しかし、愛した女性を失ったことで精神不安定になっているディカプリオが要らぬ障害を生み出し、ミッションの難易度は上がっていく。

さあディカプリオたちはミッションを無事完遂できるのだろうか...!?
というお話である。(基本は)

夢の中で個人の「アイデア」を盗む/植えつけるという設定から、産業スパイや設計士・調合士などの社会的な設定が加わっているのは面白かった。
恩田陸の小説『夢違』でもそうだったが、こういったSF設定で長編の物語においては、「それが浸透している社会をどう描くか」が序盤の山であると思う。
90分だとその辺りさくさく流していくけれども、120分超ともなると、メインだけでは話が持たなくなる。
序盤のこの「説明中でーす」という時間をどう描くか、という点においては、非常にテンポよく、
またこのような複雑な設定のドラマを中盤で意味不明にしない丁寧な説明がされていてすばらしい作品だった。

マトリックスはこの辺が楽しくなかったので観るのをやめました。)

しかし、この作品におけるヒロイン扱いのアリアドネだが、せっかく名前をギリシア神話にあやかったのに、アリアドネらしい描写がまったく無い。
夢の中を構築する「設計士」という役割を担うのだが、それはアリアドネじゃねえ!
ディカプリオのトラウマに対して真正面から向き合い、彼がトラウマを克服するということには一役買うのだけれども。(そういう意味ではアリアドネではあるが)
だが、そもそも会って数週間の女性がなんでディカプリオにそんなに親身になるのか、他人の内面に踏み込みたがるのか、無理矢理な気がするし、
ヒロインの立ち居地を取るにはちょっと主人公との関係性が薄すぎると思ったのだが...。
ハァー、ンもうすぐそうやって別の女性が「あなたは過去に囚われては駄目、自分を許してあげて」っていうんだから....。
なんだか、名前負けというか、勿体無い感じである。
映画で唯一しっくりこなかった設定だった。

夢の中の描写は、意識の階層構造や、他人の夢の中に入ることによる違和感、起きている最中の出来事が夢の中でも影響する、
といった設定が事細かに描かれていて、非常に面白かった。
後半は「アンタそれスキーアクションしたかっただけちゃうんかい」みたいな気もしたが。
しかし、小さな状況の変化一つ一つにも意味があり、設定の補強になっている。
中盤から終盤、ずっと夢の中での話となるわけだが、まったく飽きずに面白く観ることが出来た。
そういった描写・ストーリィを楽しみにしている人は期待が裏切られないことを安心して良い。

エンディングについては、最初に(声を大にして)叫んでいた通りで、陰陽どちらにも取れるエンドである。
どちらかというと陽(ハッピーエンド)寄りな終わり方ではあるが。
こういう解釈の余地がある曖昧エンドは好みの問題なので、良し悪しは無いだろう。
ただ、最近はもう、こういう曖昧エンドは疲れるというか、観終わった後スッキリしないので、個人的にはあまり好きではない。
経年による好みの変化なのか、多重入れ子構造のミステリだとか、奇抜でどんでん返しなトリックって読み終わった後にとても疲れるようになってきた。
講談社ミステリもそろそろ30歳超えてガツガツ揚げ物食べさせられてるみたいな気分)
148分も観たのでスッキリ終わって欲しい。


総合評価としては、話題になるほどの面白い映画だったと思う。

ここからは蛇足。
ほとんどのアクションを実際に撮っている(CGではない)ということだが、素人にはその価値はなかなか分からなかった。
「へーあれを実際に?凄いなぁ」くらいの感想である。
手料理だろうが、工場で機械が作っていようが同じものが出来るなら、「苦労したから美味しいのよ」ってその過程に価値を見出すのは芸術の領域ではなかろうか。
私は映画をそういうメタ的な見方をして、評価をするっていうのにはあまり好きではないので...。
一方で、こういった「この手法が凄いですよ」「今回、最新の手法を取りました」ということをアピールポイントにするなら、
映画館で見る人間に伝わらずに、円盤で観る人間にしか伝わらないというのは勿体無い話なんじゃないかなぁと思う。

うーん、本当に面白かった人はもう一回DVDとかブルーレイでコメンタリーとか観るからね?ってことなのかしら。
このあたりのロマンは完全に、ウルトラマン初期とかゴジラとか、ああいう特撮ロマンに通じる世界なんだろうな........。