白々しい白



泥水みたいな珈琲が運ばれてきて、大して可愛くもないウェイトレスが伝票を置いて去っていくのを確かめてから、私は目の前の男の子にもう一度きいた。

それで幸せになるためにはどうすればいいの。

男の子は皿にでんと盛られた生クリームを頬張りながら、うんうんと二回頷いた。
「まずね、あなたの幸せの方向性を決める必要があります」
そう言った。

幸せのほうこうせい、と呟く。しあわせのほうこうせい。

男の子は生クリームの山にスプーンを刺し込み、懸命に崩しながら、様々な幸せの形について語りだした。それはどれも、そうね、隣の家の人が”そんな”だったら思わず庭の芝生に火を放ちたくなるような幸せだった。
「どうですか、嫉妬したくなる幸せでしょう、あなたはどういう幸せを手に入れたいんですか。」

私は泥水を啜りながら、考えた。男の子は生クリームを食べ続けている。
ウェイトレスが水を注ぎに来た。

私の幸せは…

たどたどしく語ると、男の子は真っ直ぐに私を見つめて、良いですね、と言った。
「凄く良いですね、もしそういう人がいたら僕、きっとあなたの家の前で恵まれない子供に寄付をって毎日嫌がらせしたくなりますよ。」
男の子はそう笑って、水を飲み干した。目敏くウェイトレスが近寄ってきて もう何度目になるか分からない水のおかわりを注いだ。

それで幸せになるためにはどうすればいいの。

私がそう聞くと、男の子はにこにこしたまま、鞄の中から細長い箱を取り出した。
「これを使ってください。これを100日間で使い切ればきっと幸せになれますよ。
ただし、100日よりも先に使い切ってはいけませんし、101日目に少しだって残してはいけません。」

難しそうね

私にちゃんとできるかしら。不安を感じて言うと、男の子は私の両手をぎゅっと握った。
「大丈夫です。あなたなら出来ます。それで幸せになれるんです。継続が力になるんです。もし困った事があったら僕に連絡してください。きっと力になります。」

ありがとう、と言って私はそれを受け取った。
男の子は生クリームを食べ終わって、伝票を持って立ち上がった。
あなたの幸せを願ってますよ。
鞄とコートを抱えて私の横を通り過ぎていく。去り際に私の方を向いて、笑った。

「それ泥水ですよ」
あと、
「母さん、もうこういうのやめましょうよ」
哀しそうな顔で言った。

私は細長い箱に入った札束を見ながら
カップの底に溜まった砂利をスプーンでかき混ぜる。
今の男の子は死んだ息子に似ていたことを思い出していた。